コラム

肩を何度も脱臼するのは癖ではなくバンカート病変かもしれない|反復性脱臼と保存的治療2026.07.26

「一度脱臼した肩がその後も何度も外れる」──そう訴えて来院される方は、20代前後の男性やコンタクトスポーツを続けている若年層に少なくありません。反復性肩関節脱臼はスポーツ動作や日常動作の中で突然肩が抜け、自分で戻せることもあれば救急外来で整復してもらう必要があることもあります。「もう癖になっているから」と諦めている方も多いのですが、その背景には多くの場合、前下方の関節唇損傷、いわゆるバンカート病変という構造的な問題が潜んでいます。当院では、幹細胞培養上清液の肩関節注射で関節内の慢性炎症環境を整えるという発想を、手術と経過観察のあいだにある保存的補完策として提示することがあります。ただし、剥がれた関節唇の解剖学的再固定は注射では代替できないという線引きを、常に前提として共有しています。

この記事の要点

・繰り返す肩の脱臼「反復性肩関節脱臼」は単なる癖ではなく、多くはバンカート病変(前下方関節唇損傷)という構造的な原因が背景にある

・初回脱臼を若年で起こした人ほど再発率が高く、20歳未満では脱臼後の再脱臼率が50〜90%に達すると報告されている

・関節鏡下バンカート修復術など外科的治療が根本治療とされ、幹細胞培養上清液の肩関節注射は解剖学的安定性そのものを回復させる治療ではない

・反復する脱臼で慢性化した関節内滑膜炎・関節包炎による疼痛・違和感を整える補完的なレイヤーとして、幹細胞培養上清液の肩関節注射を組み合わせる場面がある

・脱臼制限位置の管理・肩甲骨の運動再学習・整形外科との連携を含めた総合設計が前提となる

反復性肩関節脱臼とバンカート病変の関係

肩関節はもともと可動域を最大化するために関節窩(受け皿)が浅く、その周縁にある関節唇と呼ばれる線維軟骨のリングが接触面積を広げて安定性を担っています。前方脱臼の際、上腕骨頭が前下方へ抜ける過程で、この関節唇が関節窩の縁から剥がれるように損傷を受けることが多く、これがバンカート病変です。剥がれた関節唇は自然にはくっつきにくく、次に同じ方向の力がかかった際に再び上腕骨頭が抜けやすい構造として残り続けます。反復性肩関節脱臼が「癖」に見える正体は、実はこの構造的な弱点なのです。

recurrent shoulder dislocation bankart lesion stem cell

初回脱臼の年齢と再発率

反復性肩関節脱臼の再発率は、初回脱臼を起こした年齢と強く相関することが臨床研究で報告されています。20歳未満で初回脱臼を経験した場合、以後の再脱臼率は50〜90%に達する一方、40歳以上で初発した症例では再発率がぐっと下がる傾向があります。若く活動性の高い年代では、初回脱臼後の組織治癒だけに任せていても、次の外傷で同じ方向に抜けるリスクが残り続けるということです。ここには個人差があり、活動レベルや競技種目によっても再発リスクは変わります。

骨性バンカート・ヒル・サックス病変の合併

反復脱臼を重ねるうちに、関節窩前下方の骨欠損(骨性バンカート)や、上腕骨頭後外側が関節窩縁に当たって生じる骨欠損(ヒル・サックス病変)が進むことがあります。骨欠損が一定の閾値を超えると、関節鏡下の軟部組織修復だけでは再脱臼を防ぎきれず、ラタジェ法など烏口突起移行を伴う骨性再建術が検討されます。肩関節疾患の情報については日本整形外科学会のガイドラインなども参照してください。CTでの骨欠損評価、MRIないしMR関節造影での関節唇評価は、治療方針を決めるうえで欠かせない検査です。

幹細胞培養上清液の肩関節注射で狙えること・狙えないこと

反復性肩関節脱臼の「解剖学的な不安定性そのもの」は、関節鏡下バンカート修復術のような外科的アプローチで対処すべき問題です。剥がれた関節唇を関節窩に再固定する治療は、注射では代替できません。この点は初診で必ず誠実に線引きしています。

関節内炎症環境というレイヤー

その一方で、脱臼を繰り返した肩の関節内では、滑膜の慢性炎症、関節包の肥厚、滑膜パンヌスの形成、関節軟骨の摩耗といった変化が積み重なっていきます。「明らかな脱臼はしていないのに引っ掛かり感や鈍痛が続く」「亜脱臼レベルの違和感が消えない」といった症状の背景には、この慢性炎症環境が関与していることが少なくありません。幹細胞培養上清液に含まれる各種成長因子・抗炎症サイトカインは、関節内の炎症サイクルに介入しうる作用が基礎研究で示されており、症状面の底上げを狙う補完的な選択肢として位置づけています。ただし効果には個人差があり、断定的な効果保証はできません。

手術待機期間・術後リハビリ期間の補助として

学業やシーズン中の競技スケジュールの都合で手術のタイミングをすぐに決められない方、あるいは術後リハビリの過程で肩関節内の炎症・疼痛をコントロールしたい方に対して、幹細胞培養上清液の肩関節注射を組み合わせることがあります。とはいえこれは「手術を回避するための治療」ではなく、機能面での底上げを狙う補助と位置づけています。詳細は幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらをご確認ください。

治療選択の順序と森脇医師の視点

この病態を疑う患者さんには、まず整形外科でのMRIないしMR関節造影、CTでの骨欠損評価、脱臼方向と受傷肢位の詳細な問診を必須と考えています。そのうえで、初回脱臼時の年齢、再脱臼回数、骨欠損の程度、日常生活・スポーツレベル、患者本人の意向を総合的に判断します。若年のコンタクトスポーツ選手で骨欠損が大きい症例は、術式選択(バンカート修復かラタジェ法か)を含め整形外科との連携が最優先となります。幹細胞培養上清液の肩関節注射は、その判断のあいだに慢性炎症・疼痛をコントロールしたい局面、あるいは何らかの理由で手術を選ばず保存的に付き合う選択をした患者さんの機能維持の局面で候補となります。

よくある質問

Q. 反復性肩関節脱臼を放置するとどうなりますか?

再脱臼を重ねるうちに骨性バンカート・ヒル・サックス病変が進行し、関節窩前下方の骨欠損が拡大していくリスクがあります。骨欠損が一定を超えると軟部組織修復だけでは対応しきれなくなるため、若年で反復脱臼傾向がある場合はできるだけ早めに整形外科で構造評価を受けることをおすすめします。

Q. 幹細胞培養上清液の肩関節注射で脱臼しなくなりますか?

いいえ。剥がれた関節唇を関節窩へ再固定する治療は注射では行えません。幹細胞培養上清液の肩関節注射が狙うのは、反復脱臼で生じた関節内の慢性炎症環境を整えることであり、疼痛や違和感といった症状面の底上げが目的です。解剖学的な安定性そのものの回復は関節鏡下手術の役割です。

Q. 手術を受けるべきか迷っています。判断の目安は?

初回脱臼時の年齢、再脱臼回数、骨欠損の程度、日常生活・スポーツのレベル、患者さん本人の希望を組み合わせて判断します。若年のコンタクトスポーツ選手で骨欠損が明らかな場合は手術優位、活動量が高くない年配の方は保存的対応が優位となる傾向はありますが、個別性が高いため必ず整形外科医と相談してください。

Q. 注射の効果はいつ・どのように判定しますか?

数週から数か月の単位で、疼痛スコア、可動域、日常動作での負担感を客観的に評価します。反応が乏しい場合は継続・変更・整形外科的な再評価へと切り替える判断軸を、初診の段階で共有しています。

Q. 注射後の運動制限はありますか?

施術当日は激しい肩の運動、重量負荷トレーニング、投球やコンタクトプレーを避けていただきます。翌日以降は疼痛の程度に応じて段階的に再開しますが、脱臼リスクのある外転外旋位への急な負荷は避け、肩甲骨周囲筋の運動再学習と並行して進めることをお願いしています。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

ECFMG Certificate 取得

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