コラム

遠位橈尺関節症(DRUJ)とは?手首の小指側が痛む原因とTFCC損傷との違い、注射治療2026.08.17

「ドアノブを回すとき、瓶のふたを開けるとき、フライパンを振るとき──前腕を回すたびに手首の甲側から小指側にかけてずきずきとした痛みが走る」。こうした症状で来院される患者さんの中には、TFCC損傷や腱鞘炎、あるいはキーンベック病と診断がついたものの治療が長引いている方が少なくありません。実はその痛みの背景に、遠位橈尺関節症(DRUJ arthrosis)が隠れているケースがあります。

この関節症は、前腕の橈骨と尺骨が手首側で合わさる関節(DRUJ)に生じる変性性関節症です。関節裂隙が狭くなり、関節円板が薄くなり、関節を包む滑膜が慢性的に炎症を起こすことで、回内・回外(手のひらを返す動き)のたびに痛みが誘発されます。診断が遅れやすく、対症療法だけでは症状が慢性化しやすい病態です。本稿では、本症をTFCC損傷・キーンベック病・変形性手関節症と取り違えないための臨床的視点と、幹細胞培養上清液のDRUJ周囲注射で狙える関節内炎症環境の是正、そして狙えない骨性変形そのものの是正との線引きを、森脇医師の視点で整理します。

この記事の要点

・遠位橈尺関節症は、前腕を回すたびに手首の甲側〜小指側が痛む「回旋動作痛」が特徴で、TFCC損傷・キーンベック病・狭窄性腱鞘炎と取り違えられやすい。

・原因は加齢による関節円板変性、橈骨遠位端骨折(コーレス骨折など)後の関節面段差、尺骨プラスバリアント、関節リウマチ、過去のDRUJ亜脱臼歴など多岐にわたる。

・幹細胞培養上清液のDRUJ周囲注射は、慢性化した滑膜炎の炎症サイトカイン環境を穏やかに整えることを狙う治療で、骨性変形や関節面破壊そのものを元に戻す治療ではない。

・高度な骨破壊・DRUJ完全脱臼などでは尺骨頭切除術(Darrach法)などの手術検討が優先される。適応と限界を医学的に線引きすることが重要。

遠位橈尺関節症とはどんな病態か

遠位橈尺関節(DRUJ: Distal Radioulnar Joint)は、前腕の橈骨と尺骨が手首側で接する関節です。この関節と、関節円板を含む三角線維軟骨複合体(TFCC)、そして肘側の近位橈尺関節が協調して働くことで、私たちは手のひらを上下に返す「回内・回外」の動きを行えます。

DRUJの構造と役割

橈骨遠位端の尺骨切痕と尺骨頭が凹凸で噛み合い、その隙間を関節円板が埋めることで滑らかな回旋が可能になります。関節円板は加齢とともに薄くなり、40代以降には中央部の変性が高頻度で認められるといわれます。この関節円板の菲薄化と骨性接触の増加が、DRUJの慢性炎症と変性の温床となります。

変形性DRUJの発症メカニズム

本症の背景には、①加齢による関節円板変性、②橈骨遠位端骨折後の関節面段差、③尺骨プラスバリアント(尺骨が橈骨より長い状態)による過剰な接触圧、④関節リウマチによる慢性滑膜炎、⑤過去のDRUJ亜脱臼歴などが挙げられます。関節裂隙が狭くなり、軟骨下骨が硬化し、辺縁に骨棘が形成される過程で、滑膜が慢性的に炎症を起こし、疼痛と可動域制限を引き起こします。

遠位橈尺関節症と取り違えられやすい疾患

TFCC損傷との違い

TFCC損傷は、転倒時に手をついた際や、テニス・ゴルフの反復スイング動作で発症する外傷性の要素が強く、痛みは尺側手根伸筋腱の直下や関節円板中央に限局しやすい傾向があります。一方、本症の痛みは前腕回旋動作全般で誘発され、Piano key test(尺骨頭を背側から圧迫し疼痛や不安定性を確認する検査)で異常が出やすいのが特徴です。両者は共存することもあるため、単純X線での関節裂隙狭小化と、MRIでの滑膜肥厚・軟骨変性の所見を組み合わせて評価します。

キーンベック病との違い

キーンベック病は月状骨の無腐性壊死で、痛みは手首の中央(月状骨直上)に限局し、握力低下を伴いやすいのが特徴です。DRUJ arthrosisの痛みは尺側〜背側に偏り、回旋時に増悪する点で区別されます。両者は尺骨マイナスバリアント(キーンベック病のリスク因子)とプラスバリアント(DRUJ症のリスク因子)で発症背景が対照的ですが、進行例では手関節全体に炎症が波及するため、初期段階での画像鑑別が重要です。

狭窄性腱鞘炎・手根管症候群との違い

ドケルバン腱鞘炎は親指側の第1背側区画に、ばね指は指のA1プーリー部に圧痛が出るのに対し、遠位橈尺関節症は尺側手関節に限局した圧痛と回旋時痛が中心となります。手根管症候群は正中神経支配領域のしびれが主症状で、疼痛パターンが異なります。関節疾患の情報については日本整形外科学会のガイドラインも参照ください。

distal radioulnar joint pain wrist rotation

幹細胞培養上清液のDRUJ注射で狙えること・狙えないこと

狙えること:慢性化した滑膜炎の炎症環境是正

幹細胞培養上清液には、IL-1β・TNF-αなどの炎症性サイトカインの過剰活性を抑える方向に働くとされる因子、そしてTGF-β・IGF-1・FGF・HGFといった組織修復環境を整えるとされる成長因子群が含まれています。DRUJ内で慢性化した滑膜炎に対しては、これらのシグナル環境を穏やかに整えることを狙って関節内・関節周囲へ注射します。ステロイド関節注射のような即効性の強い抗炎症作用とは異なる、関節環境そのものにアプローチする方法です。詳しくは幹細胞培養上清液の関節注射についてのページもご参照ください。

狙えないこと:骨性変形と関節面破壊そのもの

一方で、遠位橈尺関節症で進行した骨棘形成・関節裂隙消失・尺骨頭の骨性変形、尺骨プラスバリアントそのもの、あるいはDRUJ完全脱臼や関節円板の広範断裂を「元に戻す」ような効果は、幹細胞培養上清液のDRUJ注射では期待できません。これらは物理的・解剖学的な問題であり、注射で組織の炎症環境を整えられても、骨や関節面のかたちを変えることはできないためです。効果には個人差があり、進行度によっては尺骨頭切除術(Darrach法)・尺骨短縮術・DRUJ人工関節などの手術検討が優先されるケースもあります。

注射のタイミングと併用の考え方

本症に対しては、①手関節の安静と装具(サポーター・スプリント)による回旋動作の制限、②リハビリテーションによる前腕筋群のバランス調整、③NSAIDsによる短期的な疼痛コントロール、④幹細胞培養上清液の関節周囲注射、といった保存療法を段階的に組み合わせるのが基本です。効果判定は数週間〜数か月単位で疼痛スコア(VAS/NRS)と回旋可動域、握力の変化を客観的に評価します。反応が乏しい場合には、整形外科的な再評価と手術適応の検討へ切り替える判断が求められます。

よくある質問

Q. 遠位橈尺関節症は自然に治りますか?

軽度の変性であれば安静と装具・リハビリで症状が落ち着く方もいますが、関節裂隙狭小化を伴う進行例では自然経過での改善は難しく、疼痛が慢性化しやすい傾向があります。早期に整形外科で評価を受けることが望ましいです。

Q. どんな検査で診断できますか?

問診とPiano key testなどの理学所見、単純X線での関節裂隙・尺骨バリアント評価、必要に応じてMRIでの滑膜炎・関節円板変性の評価、CTでの骨性変化の詳細評価を組み合わせて診断します。

Q. ステロイド注射と幹細胞培養上清液の関節注射はどう違いますか?

ステロイドは強力な抗炎症作用で短期的な疼痛軽減が期待できる一方、繰り返し使用による軟骨変性リスクや腱脆弱化の懸念があります。幹細胞培養上清液は関節内の炎症サイトカイン環境そのものを穏やかに整えることを狙う異なるアプローチで、目的と時間軸が違います。

Q. 何回くらい注射を受ける必要がありますか?

症状や進行度によって個別に設計しますが、初期は2〜4週間隔で数回、その後は反応をみながら維持期の間隔を延ばしていくのが一般的です。効果には個人差があり、リハビリや装具との併用が土台となります。

Q. 手術と幹細胞培養上清液の注射はどう選び分けますか?

高度な骨破壊・関節脱臼・尺骨頭の著明な変形など解剖学的な再建を要する段階では、Darrach法などの手術が優先されます。関節裂隙が保たれ、炎症症状が主体の段階では、まず保存療法として幹細胞培養上清液の関節注射を検討することがあります。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

ECFMG Certificate 取得

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