コラム

後十字靭帯(PCL)損傷を「打撲の後遺症」で片づけない理由|膝の慢性不安定性と注射治療2026.08.12

膝を強く打った後、日常生活には戻れたものの「立ち上がりや下り坂で膝がゆるい」「時々奥がずんとうずく」といった違和感が数か月〜数年続く方がいます。急性期に骨折や半月板損傷が否定されると『打撲の後遺症でしょう』と片づけられがちです。しかしその中には、後十字靭帯損傷(PCL損傷)が慢性の膝関節不安定性と滑膜炎サイクルを残しているケースが少なからず存在します。本コラムでは、AVAN TOKYO 銀座 関節再生医療の森脇医師が、後十字靭帯損傷の病態と、幹細胞培養上清液の膝関節注射で狙えるもの・狙えないものの線引きを整形外科的に整理します。

この記事の要点

・後十字靭帯損傷(PCL損傷)はダッシュボード外傷やスポーツ受傷で起きるが、急性期の症状が比較的軽いため見逃されやすい病態である。

・慢性期には膝関節の後方不安定性(脛骨後方サギング)が残り、大腿脛骨関節・膝蓋大腿関節の接触圧分布が変化して二次性の軟骨変性・滑膜炎サイクルを招く。

・幹細胞培養上清液の膝関節注射で狙えるのは関節内の炎症環境の是正であり、断裂した靭帯そのものの解剖学的再建ではない。

・グレードI〜IIの孤立性PCL損傷では装具・筋力訓練を軸とした保存療法が第一選択となる場合が多いが、複合靭帯損傷や高度不安定例では靭帯再建術の適応が検討される。

・治療設計はMRI・ストレス撮影・臨床所見をもとに、整形外科的評価と並走して組み立てるべきである。

後十字靭帯損傷(PCL損傷)とは何か

後十字靭帯は膝関節の中心部で、脛骨が大腿骨に対して後方へずれるのを制動する主要な靭帯です。前十字靭帯(ACL)よりも太く強靭ですが、一度損傷すると自然治癒が難しく、慢性の膝関節不安定性の原因となります。

受傷機転──ダッシュボード外傷とスポーツ受傷

代表的な受傷機転は、自動車事故で膝を屈曲した状態のままダッシュボードに打ち付ける「ダッシュボード外傷」です。膝屈曲位で脛骨前面から後方へ強い外力が加わることで、後十字靭帯が引き伸ばされたり断裂したりします。スポーツでは、ラグビー・サッカー・柔道・アメリカンフットボールなどで屈曲した膝の前方から衝撃を受ける状況で発生します。転倒して膝前面を強く打った後にも起こり得ます。

ACL損傷との違いと『見逃されやすさ』

前十字靭帯(ACL)損傷では受傷時に「ブチッ」という断裂音や急激な膝崩れが自覚されやすく、翌日以降に関節血腫が目立ちます。一方、PCL損傷は受傷時の症状が比較的軽く、腫れも軽度〜中等度にとどまることが多いため、患者・医療者ともに『単なる打撲』として初診時に見逃されやすい傾向があります。膝前面(特に脛骨結節部)の擦過傷・皮下出血が受傷機転を推定するヒントになることがあります。

posterior cruciate ligament injury knee joint injection

後十字靭帯損傷が『打撲の後遺症』で片づけられる理由

急性期の見逃し

急性期のPCL損傷は疼痛が比較的軽く、跛行はあっても歩行が可能なことが多いため、『大きな怪我ではない』と判断されがちです。単純X線で骨傷がなければ『異常なし』となり、MRIやストレス撮影まで進まないと診断が確定しないケースがあります。この段階での見逃しが、慢性期の膝関節不安定性と滑膜炎サイクルの温床になります。

慢性期に残る後方不安定性と滑膜炎サイクル

後十字靭帯損傷を放置すると、脛骨が大腿骨に対して常にわずかに後方へ落ち込んだ状態(後方サギング)となります。この状態では大腿脛骨関節と膝蓋大腿関節の接触圧分布が変化し、内側大腿脛骨関節や膝蓋大腿関節の軟骨に慢性的なストレスがかかります。結果として滑膜炎が持続し、関節液貯留・可動域制限・下り階段や下り坂での違和感といった症状が数か月〜数年をかけてじわじわ進行します。長期経過では二次性の変形性膝関節症へ移行することも報告されており、『打撲の後遺症』と片づけてよい病態ではありません。

幹細胞培養上清液の膝関節注射で狙えるもの・狙えないもの

関節内の炎症環境の是正(狙える)

幹細胞培養上清液には、TGF-β・IGF-1・HGF・VEGF などの成長因子とエクソソーム(miRNA を含む細胞外小胞)が含まれ、関節内の滑膜炎サイクルに対して抗炎症・組織修復環境の是正を狙える可能性があります。PCL損傷の慢性期に見られる持続する滑膜炎・関節液貯留・軽度の軟骨変性に対して、幹細胞培養上清液の膝関節注射は『関節内の炎症の火を下げる』保存療法の一つの選択肢となり得ます。ヒアルロン酸注射(潤滑補充)・ステロイド注射(抗炎症)とは作用機序が異なるため、これらで頭打ちになった症例に対しても検討の余地があります。

靭帯そのものの解剖学的再建(狙えない)

一方で、幹細胞培養上清液の膝関節注射はあくまで関節内環境に働きかける治療であり、断裂した後十字靭帯そのものを解剖学的に再建する治療ではありません。ここは誠実に線引きしておく必要があります。グレードIII以上の完全断裂や複合靭帯損傷(ACL・MCL・LCL・後外側支持機構との合併)、日常生活に支障をきたす高度な後方不安定性が残る症例では、靭帯再建術の適応が優先されます。効果には個人差があり、すべてのPCL損傷に幹細胞培養上清液の膝関節注射が有効であると断定することはできません。

保存療法と手術の分岐点──治療設計の考え方

孤立性のグレードI〜IIのPCL損傷では、大腿四頭筋を中心とした筋力訓練・装具療法・活動レベル調整による保存療法が第一選択となる場合が多いとされています。この保存療法の枠組みの中で、慢性期に残る関節内炎症・滑膜炎に対して幹細胞培養上清液の膝関節注射を組み合わせる、という位置づけが医学的に整合します。一方で、複合靭帯損傷や、日常・スポーツで支障をきたす高度な後方不安定性が持続する例では、靭帯再建術の適応が検討されます。適切な治療設計のためには、MRI・ストレス撮影・臨床所見を踏まえた整形外科的な評価が不可欠です。関連する保存療法の考え方や適応については、幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらをご参照ください。関節疾患全般の医学情報については日本整形外科学会のサイトも参考になります。

よくある質問

Q. 何年も前に受傷したPCL損傷でも、幹細胞培養上清液の膝関節注射は意味がありますか?

慢性期に残る関節内滑膜炎や軽度の軟骨変性が症状の背景にある場合は、炎症環境の是正という観点で選択肢となり得ます。ただし、後方不安定性そのものを治す治療ではないため、まずMRI・ストレス撮影で不安定性の程度を評価し、装具療法・筋力訓練を含む包括的な治療設計の中で位置づけることが重要です。

Q. 靭帯再建術を勧められましたが、まず幹細胞培養上清液の関節注射で粘れませんか?

グレードや複合損傷の有無、日常生活・スポーツ活動での支障の程度によります。高度な不安定性が残る症例や複合靭帯損傷では、注射で靭帯を解剖学的に再建することはできません。整形外科医と再生医療の医師の両方の視点で、手術適応と保存療法の分岐を慎重に判断する必要があります。

Q. 幹細胞培養上清液の膝関節注射は何回受ければ効果が出ますか?

効果発現・持続には個人差があり、一律に『何回で効く』と断定することはできません。導入期に一定間隔で複数回投与し、痛み・可動域・日常動作を客観的に評価しながら維持期の間隔を設計するのが一般的な考え方です。反応が乏しい場合は継続・変更・整形外科的再評価への切り替えを検討します。

Q. PCL損傷の後に膝の後ろが腫れています。関節注射はできますか?

膝窩部の腫脹はベーカー嚢腫や関節液貯留を反映していることがあります。感染性関節炎や急性の出血性関節症が疑われる場合は関節注射が禁忌となるため、まず関節穿刺・関節液性状の評価と画像検査を先行させ、発熱・激痛・強い熱感といった赤旗徴候がないことを確認したうえで治療設計を行います。

Q. 保存療法と再生医療で『治った』と判断できるのはどんな状態ですか?

PCL損傷における『治癒』は解剖学的な靭帯の再建を意味するわけではなく、関節内炎症のコントロール・可動域・筋力・日常生活動作の回復を総合的に評価します。定期的な診察と画像フォローで、二次性の変形性膝関節症への進行がないかを長期的にモニタリングする姿勢が重要です。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

ECFMG Certificate 取得

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