コラム

円形脱毛症・びまん性脱毛症とは?2026.03.11

脂肪幹細胞培養上清液が向いている脱毛の種類と、その医学的な作用機序

「脱毛症」と一言でいっても、原因は一つではありません。

実際には、自己免疫が主体の脱毛、ホルモンや遺伝が主体の脱毛、ストレスや出産後などで毛が抜ける脱毛、炎症で毛包そのものが壊れてしまう脱毛など、病態はかなり異なります。アメリカ皮膚科学会(AAD)でも、代表的な脱毛として円形脱毛症、女性型・男性型脱毛症、休止期脱毛、牽引性脱毛症、瘢痕性脱毛症などを分けて扱っています。 

この違いはとても重要です。

なぜなら、脂肪幹細胞培養上清液(adipose-derived stem cell conditioned medium: ADSC-CM)が効きやすい脱毛と、単独では効きにくい脱毛があるからです。どの脱毛にも同じように効く、という理解は医学的には正確ではありません。 

まず知っておきたい主な脱毛症の種類

1. 円形脱毛症

円形脱毛症は、免疫系が毛包を標的にしてしまう自己免疫性の脱毛症です。突然、円形または楕円形のつるっとした脱毛斑が出ることが多く、頭髪だけでなく、眉毛・まつ毛・ひげなどに及ぶこともあります。進行すると頭全体の脱毛(alopecia totalis)や全身脱毛(alopecia universalis)になることもあります。 

2. びまん性脱毛症

「びまん性脱毛症」は厳密には病名というより、頭部全体が広く薄くなる見え方を指すことが多く、背景にはいくつかの病態があります。代表は、**女性型脱毛症(FPHL/FAGA)と休止期脱毛(telogen effluvium: TE)**です。前者は分け目や頭頂部を中心に徐々に薄くなり、後者は出産、発熱、手術、栄養障害、精神的・身体的ストレスなどをきっかけに、一時的に毛が多く抜けるタイプです。 

3. 男性型・女性型脱毛症(AGA/FPHL)

AGAや女性型脱毛症は、毛包のミニチュア化が中心です。遺伝的背景やアンドロゲン感受性の影響で、成長期が短くなり、毛が細く短くなっていきます。現在の標準治療の中心はミノキシジル、男性ではフィナステリド/デュタステリドなどで、再生医療系治療は“補助的・追加的”な位置づけです。 

4. 瘢痕性脱毛症

瘢痕性脱毛症は、炎症によって毛包が不可逆的に破壊されるタイプです。この場合、毛包そのものが失われるため、どんな再生系治療でも限界があります。まず炎症を抑えて進行を止めることが優先で、脂肪幹細胞培養上清液のような治療を行う場合も、適応はかなり慎重に判断すべきです。 

脂肪幹細胞培養上清液とは何か

脂肪幹細胞培養上清液は、脂肪由来幹細胞そのものを入れるのではなく、幹細胞が培養中に分泌した成長因子・サイトカイン・各種シグナル分子を含む上澄みを用いる考え方です。レビューでは、VEGF、HGF、IGF-1、PDGF、bFGF など、毛包環境や血流、細胞増殖に関わる因子が含まれる可能性が示されています。 

ポイントは、これは**“毛を生やす魔法の液体”ではなく、毛包の周囲環境を整えて、毛周期の立て直しを後押しする治療コンセプト**だということです。したがって、毛包がまだ生きている脱毛には理論的に相性がよく、毛包が壊れている病態では限界があります。 

脂肪幹細胞培養上清液が比較的向いている脱毛

1. 男性型・女性型脱毛症(AGA/FPHL)

現時点で、脂肪幹細胞培養上清液の臨床データが最も蓄積しているのはAGA/FPHL系です。小規模試験やレビューでは、毛髪密度や毛径の改善が報告されており、2020年のランダム化二重盲検試験でも、脂肪由来幹細胞成分抽出液の外用で、対照群より毛髪密度・太さの改善が示されています。もっとも、サンプル数や評価法、投与法はまだ均一ではなく、長期成績や標準化は不十分です。 

つまり医学的には、

**「AGA/FPHLに対して有望な補助治療」**とは言えますが、

**「標準治療を置き換える確立治療」**とまではまだ言えません。 

2. 休止期脱毛(telogen effluvium)

休止期脱毛に対しても、最近はADSCCMの報告が出ています。2023年の報告では、TE患者で改善傾向が示されましたが、ここもまだエビデンスは初期段階です。そもそもTEは、原因検索と原因修正が主役で、鉄欠乏、栄養障害、甲状腺異常、出産後、発熱後、薬剤、急激なダイエットなどの背景を見逃さないことが先です。 

そのためTEに対する上清液治療は、

原因精査をしたうえで、回復を後押しする補助的選択肢

という理解が適切です。 

効果が限定的、または単独治療として勧めにくい脱毛

1. 円形脱毛症

円形脱毛症は自己免疫が中心なので、病態の主軸は毛包周囲の免疫異常です。理論的には上清液の抗炎症・免疫調整作用がプラスに働く可能性はありますし、microneedlingやフラクショナルレーザーと併用した小規模報告もあります。

ただし、現時点ではAGAほどエビデンスは強くありません。円形脱毛症は重症度によって標準治療がかなり異なり、局所注射、外用、免疫療法、場合によってはJAK阻害薬など、病型に応じた治療選択が優先されます。 

したがって円形脱毛症に対しては、

脂肪幹細胞培養上清液は“補助的に検討され得る領域”ではあっても、主治療として安易に前面に出すべきではない

というのが安全な整理です。 

2. 瘢痕性脱毛症

瘢痕性脱毛症では毛包破壊が進むため、上清液単独での改善は期待しにくいです。まずは炎症を止めることが最優先で、進行期に“発毛治療”だけを前面に出すのは不適切です。 

脂肪幹細胞培養上清液の医学的作用機序

1. 毛周期を“休止期から成長期へ”戻す方向に働く

毛包は、成長期(anagen)・退行期(catagen)・休止期(telogen)を繰り返します。脂肪由来シグナルは、休止期から成長期への移行や、成長期維持を後押しする可能性が示されています。これはAGAやTEのように、毛包が残っているけれど元気が落ちている病態と相性がよい理由の一つです。 

2. 毛乳頭細胞・毛包幹細胞周囲のシグナルを支える

レビューでは、ADSC由来因子が毛乳頭細胞の増殖、遊走、細胞外マトリックス環境に影響しうることが示されています。簡単に言えば、毛包が働きやすい“土壌”を整える方向です。 

3. 血管新生・微小循環の改善

VEGFなどの因子を介して、毛包周囲の血流環境を改善する可能性が指摘されています。毛は高い代謝をもつ組織なので、血流がよいことは発毛環境にとって重要です。 

4. 抗炎症・免疫調整

上清液には、炎症性サイトカイン環境を和らげる可能性があるとされ、これが毛包ストレス軽減につながる可能性があります。ただし、この“抗炎症”は、円形脱毛症のような自己免疫疾患を単独で十分制御できる、という意味ではありません。 

実際の臨床で大切なのは「適応の見極め」

脱毛診療で最も大事なのは、何を注入するかより、まず何の脱毛かを見極めることです。

円形脱毛症をAGAとして扱ってしまえば治療がずれますし、TEに対して原因検索をせず“発毛治療だけ”をしても不十分です。瘢痕性脱毛症なら、さらに慎重さが必要です。 

そのうえで脂肪幹細胞培養上清液は、特に

AGA/FPHL、次いで一部のTEで、

毛包が残っている段階の補助治療として検討しやすい、というのが現時点の医学的整理です。 

AVAN TOKYOでこの領域を扱うなら大事にしたい考え方

美容医療の現場では、どうしても「再生」「幹細胞」という言葉が先行しがちです。

ただ、本当に満足度の高い医療は、診断を飛ばして上清液を打つことではなく、脱毛タイプを見極め、その方に合う治療を組み合わせることです。ミノキシジルや内服、生活背景の是正、頭皮管理、必要に応じた再生系治療を、病態ごとに設計することが重要です。 

AVAN TOKYOでこの治療を打ち出すなら、

「どの脱毛にも効く万能治療」ではなく、AGA/FPHLや一部TEに対して、毛包環境を整える再生補助治療として提案する」

この姿勢が、医学的にもブランディング的にも強いと思います。 

まとめ

脂肪幹細胞培養上清液が比較的向いているのは、

**男性型・女性型脱毛症(AGA/FPHL)と、場合によっては休止期脱毛(TE)**です。

一方、円形脱毛症は補助的位置づけ、瘢痕性脱毛症は適応をかなり慎重にみるべきです。 

作用機序としては、

毛周期の正常化、毛包周囲シグナルの支持、血流改善、抗炎症作用が中心です。

ただし、まだ標準化や長期データは十分ではなく、現時点では確立治療というより有望な再生補助治療として位置づけるのが妥当です。