脂肪吸引の術前検査は何を見ている?貧血・凝固・肝腎機能の意味を医師が解説2026.07.13
脂肪吸引は皮下脂肪をカニューレで吸引する外科手術であり、安全に受けるためには「体が手術に耐えられる状態か」を数値で客観的に確認しておく必要があります。そのために欠かせないのが脂肪吸引の術前検査です。血液検査・心電図・胸部レントゲン・感染症スクリーニングなど複数の項目を組み合わせ、貧血の有無、出血傾向、肝腎機能、血糖コントロール、感染症の有無を総合的に評価します。この記事では、当院で行っている脂肪吸引の術前検査で何を見ているのか、異常値が出た場合の対応、年齢や持病に応じた追加検査までを、監修医の視点で解説します。
この記事の要点
・脂肪吸引の術前検査は「手術に体が耐えられるか」を数値で確認する安全担保の要である
・血液検査では貧血(Hb)・凝固能(PT/APTT/血小板)・肝腎機能(AST/ALT/Cr/eGFR)・血糖(HbA1c)・感染症(HBV/HCV/HIV/梅毒)を確認する
・異常値が出ても即座に手術中止ではなく、追加検査や内服調整・治療で対応できるケースが多い
・広範囲脂肪吸引や全身麻酔症例では心電図・胸部レントゲンも必須になる
・術前検査は手術予定日の1〜2週間前までに受けておくことが望ましい

脂肪吸引の術前検査で見る7つの領域
脂肪吸引の術前検査は、大きく次の7領域に分かれます。
1. 貧血のスクリーニング(ヘモグロビン・ヘマトクリット・赤血球数)
2. 凝固能・出血傾向(血小板数・PT・APTT)
3. 肝機能(AST・ALT・γGTP・アルブミン・総ビリルビン)
4. 腎機能(BUN・クレアチニン・eGFR)
5. 糖代謝(空腹時血糖・HbA1c)
6. 感染症スクリーニング(HBV・HCV・HIV・梅毒)
7. 炎症所見・全身状態(CRP・白血球分画)
これらは単なるルーチン検査ではなく、「手術中と術後に何が起こりうるか」を予測するための総合パネルです。数値の意味を理解しておくことで、患者様ご自身も安心して手術に臨むことができます。
血液検査項目の医学的意味
貧血:ヘモグロビン(Hb)
脂肪吸引はチュメセント麻酔で出血を抑えても、広範囲では総出血量が数百mL規模に達することがあります。ヘモグロビンが女性で12g/dL未満の状態で広範囲脂肪吸引を行うと、術後の強い倦怠感・立ちくらみ・回復遅延を招きます。当院ではHb 11g/dL未満の方には、鉄剤による事前補正か手術範囲の縮小を提案しています。
凝固能:PT・APTT・血小板
血小板が15万/μL未満、あるいはPT-INRが1.2を超える場合は「出血しやすい状態」と判断します。低用量ピル・NSAIDs系鎮痛薬・魚油サプリ・ビタミンE・ハーブ類も出血傾向を助長するため、術前休薬指導と組み合わせて評価します。
肝機能:AST・ALT・γGTP
肝機能が低下していると、麻酔薬や鎮痛薬の代謝が遅れ、覚醒遅延や術後の強い眠気につながります。AST/ALTが基準値の2倍を超える場合は原因検索を優先し、必要に応じて手術日を調整します。脂肪肝が疑われるケースでは事前の生活指導で改善が見込めることも多くあります。
腎機能:クレアチニン・eGFR
チュメセント麻酔に含まれるリドカイン、術後鎮痛薬、抗生剤はいずれも腎排泄です。eGFR 60未満では投与量の調整、45未満では手術可否そのものの再検討が必要になります。
糖代謝:HbA1c
HbA1cが7.0%を超えると、創傷治癒遅延と感染リスクが有意に上昇することが報告されています。糖尿病がコントロール不良のまま脂肪吸引を行うと、術後感染や皮膚壊死の温床になり得ます。
感染症スクリーニング
B型肝炎・C型肝炎・HIV・梅毒はスタッフの針刺し対策と器具管理のために必ず確認します。陽性でも手術可否には直結せず、感染対策のプロトコールが変わるだけです。
脂肪吸引の術前検査で異常値が出た場合の対応
術前検査で異常が出たからといって、即座に「手術できません」となるわけではありません。実際には次のような対応で手術が可能になるケースが大半です。
・軽度貧血:鉄剤内服+食事指導で2〜4週後に再検
・軽度肝機能異常:脂肪肝・アルコール性が多く、生活指導で改善するケースが大半
・HbA1c 6.5〜7.0:内科と連携し血糖コントロール後に手術
・軽度腎機能低下:脱水を疑い水分摂取指導+再検
一方、以下の場合は原則として手術延期または内科精査を優先します。安全性を最優先するためです。
・Hb 10g/dL未満の中等度以上の貧血
・HbA1c 8.0%以上の未治療糖尿病
・血小板 10万/μL未満
・急性感染症の所見(CRP高値・発熱)
年齢・持病別に追加する検査項目
40歳以上、または広範囲脂肪吸引・全身麻酔症例では、次を追加します。
・心電図:不整脈・虚血性心疾患のスクリーニング
・胸部レントゲン:肺疾患・心拡大の確認
・心エコー(既往があれば):心機能の定量評価
甲状腺疾患既往の方は甲状腺機能(TSH・FT4)、既往に深部静脈血栓症がある方はD-ダイマー・下肢静脈エコーを追加します。個別の全身状態に応じて必要な検査を柔軟に組み合わせることが重要です。
脂肪吸引の術前検査を受けるタイミング
術前検査は手術予定日の1〜2週間前までに受けておくのが理想です。理由は次の3点にあります。
・異常値が出た場合の再検・治療の時間を確保できる
・内服調整(休薬)が余裕を持って行える
・術前カウンセリングでリスク説明を数値ベースで行える
当日採血・当日手術は緊急時の対応幅が狭くなるため、当院では原則として事前検査を必須としています。安全な脂肪吸引は、手術当日ではなく術前準備から始まっているという考え方です。
美容外科の安全基準や術前評価のあり方については日本美容外科学会の情報も参照してください。他のテーマについては脂肪吸引の関連コラム一覧もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 脂肪吸引の術前検査は必ず必要ですか?
はい、当院では脂肪吸引を受けるすべての方に血液検査と感染症スクリーニングを必須としています。安全に手術を受けていただくための最低限の準備であり、省略できるものではありません。
Q. かかりつけ医の血液検査結果を使えますか?
3ヶ月以内の検査であれば参考にできます。ただし脂肪吸引に特化した凝固能・感染症項目は当院で追加採血させていただきます。
Q. 貧血気味と言われていますが手術は受けられますか?
Hbが11g/dL以上あれば通常は手術可能ですが、広範囲脂肪吸引の場合は事前の鉄剤補正をおすすめします。10g/dL未満の場合は原則として内科での治療後に手術日を再設定します。
Q. 検査結果はどのくらいで出ますか?
一般血液検査は当日〜翌日、感染症項目は3〜5日で結果が出ます。異常があれば個別にご連絡し、手術日程を調整します。
Q. 術前検査に費用はかかりますか?
当院では脂肪吸引・豊胸をご契約いただいた方の術前検査費用は施術費用に含まれます。詳細はカウンセリング時にご確認ください。
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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
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