肩甲下筋腱損傷とは?肩の内旋がきかない原因と五十肩・腱板断裂との違い、注射治療2026.08.14
「腕は上がるのに、シャツをズボンにしまう動作でズキッと痛む」
「脇を締めて雑巾を絞ろうとすると、肩の前がひきつるようにうずく」
「五十肩と言われて注射やリハビリを続けてきたが、内旋動作だけがいつまでも回復しない」
こうした訴えの背景には、肩甲下筋腱損傷(subscapularis tendon injury)が隠れていることがあります。回旋筋腱板(ローテーターカフ)4筋のなかで、肩関節の前面を覆う唯一の筋──それが肩甲下筋です。この筋腱の慢性的な微細損傷は、棘上筋腱の断裂ほど画像で目立たず、五十肩の症状とも重なるため、診断が遅れやすいという特徴があります。本コラムでは、AVAN TOKYO 銀座 関節再生医療の森脇医師が、この病態と幹細胞培養上清液の肩関節周囲注射で狙える範囲・狙えない範囲の線引きを、臨床の視点から丁寧に整理していきます。
この記事の要点
・肩甲下筋腱損傷は、肩の「内旋」と「結帯動作(背中に手を回す動き)」で痛みが出やすい前方腱板の微細損傷で、五十肩や棘上筋腱断裂と症状が重なりやすい
・ベリープレステストとリフトオフテストの陽性所見が、前方腱板損傷を見立てる重要な手がかりになる
・幹細胞培養上清液の肩関節周囲注射で狙えるのは、腱周囲・滑液包の慢性炎症サイクルの是正であって、完全断裂の解剖学的な再建ではない
・注射単独で終わらせず、内旋・外旋の可動域改善と腱板筋力訓練を並行して設計することが機能回復には不可欠
・重度断裂・脂肪変性が進行した例では、整形外科的手術評価を先行させる判断も必要になる
肩甲下筋腱損傷とは何か──前方腱板の見落とされやすい慢性微細損傷
肩甲下筋の解剖と役割
肩甲下筋は、肩甲骨の前面(肩甲下窩)から起こり、上腕骨の小結節に停止する筋肉です。腱板4筋(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)のうち、唯一「前方」を担当し、肩関節を「内旋」させる主動筋として働きます。同時に、上腕骨頭を関節窩に引き寄せて安定させる「動的スタビライザー」の役割も担っています。
つまり、この腱が損傷すると、単に内旋の力が落ちるだけではなく、肩関節そのものの前方安定性が揺らぎ、結果として棘上筋腱や上腕二頭筋長頭腱にも二次的な負担がかかりやすくなるのです。
五十肩・棘上筋腱断裂と取り違えられる典型パターン
本病態で特徴的なのは、「腕は挙がるのに、内旋動作だけができない」というギャップです。多くの患者さんが「五十肩」と診断され、ヒアルロン酸注射・ステロイド注射・リハビリを続けているにもかかわらず、結帯動作(背中でブラのホックを止める、ズボンの後ろポケットに手を入れるなど)だけがいつまでも回復しないという経過を辿ります。
これは、五十肩(癒着性関節包炎)が「全方向の可動域制限」を特徴とするのに対し、前方腱板損傷では「内旋方向」に選択的な機能低下が残るためです。また、棘上筋腱断裂とは異なり、外転動作(腕を横に挙げる)は比較的保たれることも多いため、MRIでも小さな部分損傷が見逃されやすい傾向があります。

ベリープレステスト・リフトオフテストで見立てる──診察室でできる確認手順
肩甲下筋腱損傷を見立てるには、画像に頼る前に、身体診察で「機能」を確認することが重要です。整形外科領域で古くから用いられている2つのテストが、初期スクリーニングに有用です。
一つ目が「ベリープレステスト」。患者さんに、手のひらをお腹に押し当てたまま肘を体幹より前に出す動作を求めます。肩甲下筋が機能していれば手のひらは腹部から離れずに前方に押し出せますが、腱損傷があると肘が後ろに落ち、手のひらだけが腹部から浮いてしまいます。
二つ目が「リフトオフテスト」。手の甲を腰にあてた状態から、そのまま手を背中から浮かせる動作を求めます。前方腱板に損傷があると、この「持ち上げ動作」が困難になります。
これらのテストが陽性であれば、単純X線と超音波、必要に応じてMRIで小結節付着部の腱状態を評価し、断裂の程度・脂肪変性の有無・関連する他腱板の損傷を確認していきます。関節疾患の一般的な情報については日本整形外科学会も参照ください。
幹細胞培養上清液の肩関節周囲注射で狙えること・狙えないこと
肩甲下筋腱損傷に対して、幹細胞培養上清液の肩関節周囲注射で「狙えること」は、腱周囲および肩峰下滑液包・肩関節腔内の慢性炎症サイクルの是正です。腱の微細損傷部位では、炎症性サイトカインの持続的な放出とマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)による組織分解が続いており、痛みと組織治癒の遅延を招いています。上清液に含まれる各種成長因子(TGF-β、IGF-1、FGF、VEGF等)や抗炎症性サイトカインは、この慢性炎症サイクルに介入し、腱周囲環境を「治りやすい状態」に整える可能性が示唆されています。
一方、この注射で「狙えないこと」もはっきりさせておく必要があります。それは、完全断裂(full-thickness tear)の解剖学的再建、そして脂肪変性が進行した腱の機能的回復です。腱線維が完全に断裂し、Goutallier分類でグレード3以上の脂肪変性を認める例では、腱組織そのものが失われているため、注射で「元通り」に戻すことは物理的に不可能です。こうした症例では、関節鏡下腱板修復術を含めた整形外科的な手術評価が優先されます。
だからこそ、本病態の治療設計は、まず「損傷の程度と脂肪変性の有無を正確に把握する」ことから始まります。部分損傷・軽度から中等度の変性であれば、幹細胞培養上清液の肩関節周囲注射に加え、内旋・外旋の可動域改善と腱板筋力訓練を並行する保存的アプローチが第一選択になり得ます。詳しくは幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらをご覧ください。
効果判定は、疼痛スコア(VAS/NRS)、内旋角度、リフトオフ動作の再現性、そして日常生活での結帯動作の改善を、数週間から数か月の時間軸で見ていきます。反応が乏しい場合には、継続・変更・整形外科的再評価への切り替えを、患者さんと共に検討していきます。効果には個人差と限界があり、すべての症例で同じ結果が得られるわけではないことは、初診時に必ずお伝えしています。
よくある質問
Q. 五十肩と診断されて半年経ちますが、内旋動作だけが戻りません。肩甲下筋腱損傷を疑うべきですか?
外転や挙上は改善したのに、結帯動作や内旋方向にだけ痛みと機能低下が残る場合は、前方腱板の評価をおすすめします。ベリープレステスト・リフトオフテストと超音波・MRIによる詳細な精査で、隠れた腱損傷を見立てることができます。
Q. 幹細胞培養上清液の肩関節周囲注射だけで、この損傷は完全に治りますか?
完全断裂や高度な脂肪変性を伴う例では、注射のみで解剖学的な腱の連続性を回復することはできません。部分損傷・軽度の変性であれば、注射と運動療法の併用で疼痛・機能の改善が期待できますが、効果には個人差があり、すべての症例で同じ結果が得られるとは限りません。
Q. ステロイド注射で痛みは取れましたが、また戻りました。上清液注射との違いは何ですか?
ステロイド注射は強力な抗炎症作用で短期的な疼痛緩和を得やすい一方、腱組織そのものへの脆弱化リスクや効果の持続性が課題です。幹細胞培養上清液は、炎症を抑えるだけでなく、腱周囲の治癒環境に働きかける生物学的アプローチとしての位置づけがあります。両者は目的が異なる補完的な選択肢です。
Q. 手術を勧められましたが、まず注射で粘るという選択肢はありますか?
損傷の程度、脂肪変性の進行度、年齢、活動レベルによって判断は変わります。整形外科医の意見も踏まえたうえで、部分損傷であれば注射と保存療法で経過を見る選択肢は十分にあり得ます。ただし、大きな断裂や進行性の脂肪変性を認める場合、時間経過とともに手術の適応が狭まっていくため、放置は避けてください。
Q. 注射後、いつからリハビリを始められますか?
肩関節周囲注射後は、当日〜翌日は激しい運動を避け、内服・入浴・軽い日常動作は通常通り可能です。腱板筋力訓練と可動域訓練は、注射翌日〜数日以内から段階的に再開することが多く、具体的な内容は担当医と理学療法士が相談して設計します。
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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
ECFMG Certificate 取得
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