コラム

授乳中でも薄毛治療はできるのか──母乳への移行・薬剤の安全性から考える”待つべきこと”の線引き2026.07.07

出産後、シャンプーのたびに指に絡む髪の毛の多さに手が止まり、鏡の前で分け目の広がりに息をのむ──そんな経験をされている授乳中のお母さんは少なくありません。「授乳中の薄毛治療はどこまでやってよいのか」「フィナステリドやミノキシジル、話題の再生医療は母乳に影響しないのか」──診察室でも本当によく受けるご相談です。授乳期は母児の安全が最優先されるため、選べる治療とそうでない治療の線引きを、医学的な根拠に基づいて丁寧に整理することが欠かせません。本コラムでは、AVAN TOKYO 銀座の森脇医師が、「今できること」と「断乳後まで待つべきこと」の線引きを、幹細胞培養上清液という選択肢の位置づけも含めて解説します。

この記事の要点

・産後4〜6か月にピークを迎える抜け毛の多くは、妊娠中に延長された成長期の一斉離脱によるもので、6〜12か月かけて自然回復に向かうことが多い

・フィナステリド・デュタステリド・スピロノラクトンなど抗アンドロゲン薬は、授乳期は原則として使用しない

・ミノキシジル外用・内服は母乳への移行データが限定的で、授乳期は避けるか、断乳後に開始するのが安全側の判断

・幹細胞培養上清液など再生医療の授乳中の薄毛治療における使用は明確なエビデンスが乏しく、AVAN TOKYO 銀座では断乳後の開始をご相談いただくのが基本方針

・鉄・タンパク質・甲状腺の評価、睡眠と頭皮環境の見直しは、授乳期でも安全に取り組める土台の柱

授乳中に髪が抜けやすくなる医学的な背景

産後脱毛と授乳期の生理的変化

妊娠中は高濃度のエストロゲンによって毛周期の成長期が延長し、本来は退行期・休止期に入るはずだった毛が長くとどまります。出産後、エストロゲンとプロゲステロンが急激に低下すると、留まっていた毛が一斉に休止期へ移行し、産後2〜4か月ごろから抜け毛として表面化します。これが分娩後休止期脱毛(テロゲン・エフルビウム)です。ピークは産後4〜6か月ごろで、多くの方は6〜12か月かけて自然に回復に向かうことが知られています。この時期の頭皮ケアを考えるうえで、「多くは自然経過で戻る」という前提を最初に共有しておくことが極めて重要です。

甲状腺機能とフェリチンの評価は先に行いたい

産後は産後甲状腺炎の頻度が高まり、フェリチン(貯蔵鉄)も分娩・授乳で低下しやすい時期です。抜け毛の背景に潜在性甲状腺機能低下や鉄欠乏があると、いくら頭皮ケアや再生医療を重ねても回復が鈍くなります。頭皮への介入をスタートする前に、TSH・FT4・フェリチン・ヘモグロビンといった採血で内側の環境を確認しておくことは、産科・内科と連携できる範囲で行いたい重要なステップです。診断や治療方針は主治医と共有しつつ、頭皮関連の情報については日本皮膚科学会のガイドラインなど公的な情報源も参照すると安心です。

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授乳中の薄毛治療で「使えない薬」と「慎重に考える薬」

フィナステリド・デュタステリドは授乳中は禁忌

フィナステリド・デュタステリドは5α還元酵素阻害薬で、男性AGA治療の柱ですが、男性胎児・乳児の生殖器発達に影響する可能性が指摘されており、妊娠中・授乳中の女性は服用も接触も避けるべきとされています。粉砕された錠剤に触れることすら注意喚起されている薬剤であり、授乳期の選択肢からは外れます。スピロノラクトン内服など他の抗アンドロゲン療法も、授乳中の安全性データが十分ではないため、原則お勧めしていません。

ミノキシジル外用・内服は原則避ける

ミノキシジル外用は、経皮吸収量は少ないものの、母乳中への微量移行の可能性が完全には否定できず、乳児での長期安全性を担保するデータが不足しています。内服ミノキシジルはさらに全身移行が大きく、授乳期は避けるのが原則です。断乳後にあらためてAGA/FAGA治療を再検討する、というのが標準的な考え方になります。

幹細胞培養上清液は「安易なOK」でも「即NG」でもない

幹細胞培養上清液は、成長因子・サイトカイン・エクソソームを含む生物学的製剤ですが、授乳期投与に関する大規模な安全性データは現時点で存在しません。局所投与のため全身への曝露は限定的と考えられる一方、母乳への移行に関する明確なエビデンスが乏しい以上、AVAN TOKYO 銀座では授乳中の薄毛治療として幹細胞培養上清液の頭皮注入を積極的にはお勧めせず、断乳後の開始をご相談いただくことを基本方針としています。特別な事情のある方については、リスクとベネフィットを個別に丁寧に説明したうえで方針を検討します。

授乳中の薄毛治療で”今取り組めること”の柱

薬剤の選択肢が限られる授乳期でも、できることは決して少なくありません。第一に栄養面。授乳はタンパク質・鉄・亜鉛・ビタミンB群を大きく消費します。1食あたり手のひら1枚分のタンパク質、ヘム鉄を含む赤身肉・魚、亜鉛を含む豆・種実類を意識して摂ることが土台になります。第二に睡眠。細切れの授乳スケジュールでは深睡眠が確保しにくく、成長ホルモン分泌の低下が毛周期に不利に働きます。家族と役割を分担し、少しでもまとまった睡眠を確保する工夫を優先してください。第三に頭皮環境。熱すぎるお湯を避ける、皮脂を落としすぎない洗浄剤を選ぶ、しっかり乾かす、頭皮を強くこすらない──こうした基本ケアが、産後の抜け毛の底上げを地味に支えます。関連する内容は毛髪再生医療の関連コラム一覧にもまとめていますので、あわせてご覧ください。

「待つべきこと」と「やっておくべきこと」の線引き

授乳中の薄毛治療で最も伝えたいのは、「今すぐ全部やる」必要はない、ということです。産後脱毛の多くは自然経過で改善するため、まずは1年程度、内側の環境を整えながら経過を観察することが第一選択になります。一方で、産後1年を過ぎても抜け毛の勢いが続く、生え際や頭頂部の密度が明らかに低下してきた、家族歴からAGA/FAGAが疑われる、といったサインがある場合は、断乳のタイミングと合わせて再生医療や内服治療の導入を検討します。「産後だから仕方ない」で片づけず、採血・写真・マイクロスコープでの現状把握を積み上げておくことが、断乳後にスムーズに次のフェーズへ進むための助けになります。個人差と限界を前提に、無理のない設計を一緒に組み立てていきましょう。

よくある質問

Q. 授乳中に幹細胞培養上清液の頭皮注入は絶対にできませんか?

絶対禁忌といえるほど強い根拠は現時点ではありませんが、母乳への移行や乳児への長期安全性データが不足しているため、AVAN TOKYO 銀座では断乳後の開始を第一にお勧めしています。特別な事情がある方は、個別にリスクとベネフィットを比較のうえご相談ください。

Q. 産後の抜け毛はいつまで続きますか?

一般的には産後2〜4か月から始まり、4〜6か月にピークを迎え、6〜12か月かけて自然に回復する方が多いです。1年を過ぎても抜け毛の勢いが続く場合は、甲状腺機能・貧血・FAGAを含めた鑑別評価をお勧めします。

Q. ミノキシジル外用も授乳中はやめた方がよいですか?

母乳中への微量移行を完全には否定できず、乳児での安全性データが十分ではないため、授乳中は原則使用を控え、断乳後に再開・開始を検討するのが安全側の判断です。使用中に授乳の相談が生じた場合は、自己判断で継続せず主治医にご相談ください。

Q. 授乳中でも受けられる血液検査だけでも意味はありますか?

大いにあります。TSH・FT4・フェリチン・ヘモグロビン・ビタミンD・亜鉛などを評価しておくと、抜け毛の背景に治療可能な内科的要因が隠れていないかを確認でき、断乳後の治療設計にもそのまま活きます。

Q. 髪型や分け目を変えるだけでも意味はありますか?

牽引性脱毛症を防ぐ意味では有効です。同じ分け目でひっぱり続けると生え際に負担が集中します。ゆるくまとめる、分け目を定期的に変える、といった工夫は授乳期でも安全にできる予防策です。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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