コラム

PRPと幹細胞培養上清液はどう違うのか──自己血由来と細胞由来の発毛アプローチを医学的に比較する2026.06.30

「PRPと幹細胞培養上清液は、結局どちらが薄毛に効くのか?」──毛髪再生医療を検討する方から、最も多く寄せられる質問のひとつです。どちらも”成長因子を使って毛包を活性化する”という共通点を持つ一方で、由来も、品質管理のしかたも、効果の発現パターンも本質的に異なります。「自己血由来」と「細胞由来」──この出発点の違いを理解しないまま、両者を同列に比較することはできません。本稿では、PRPと幹細胞培養上清液の医学的な違いを、成分・作用・エビデンスの三つの視点から整理し、当院での組み合わせ方の考え方まで踏み込んで解説します。

PRPとは何か──自己血から取り出す「自家成長因子」

製造プロセスと含有成分

PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)は、患者本人の血液を採取し、遠心分離によって血小板を高濃度に濃縮した血漿成分です。血小板の顆粒内には、PDGF(血小板由来成長因子)、TGF-β(トランスフォーミング成長因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、EGF(上皮成長因子)など、創傷治癒や組織再生のシグナルを担う成長因子が貯蔵されています。

通常はその場で採血・遠心・調製を行い、すぐに頭皮へ注入するという即時利用が前提です。

頭皮での作用機序

頭皮に注入されたPRPでは、活性化された血小板から成長因子が一斉に放出され、毛包周囲の血管新生、線維芽細胞の活性化、休止期から成長期への移行が促されると考えられています。

自分自身の血液由来であるため、原則として免疫学的なアレルギー反応・拒絶反応のリスクは生じません。一方で、その日の体調・採血手技・調製手技によって含まれる血小板数や成長因子量が大きく揺らぐ、という再現性の課題があります。

PRP stem cell conditioned media hair regrowth comparison

幹細胞培養上清液とは何か──「細胞が育てた液体」という発想

上清液の正体

幹細胞培養上清液は、ヒトの脂肪・歯髄・臍帯などから採取された幹細胞を培養した際に、細胞そのものを含まず、細胞が培養液中に放出した分泌物の集合体(成長因子・サイトカイン・エクソソーム・miRNAなど)を回収・精製したものです。「幹細胞そのものを注入する治療」ではなく「幹細胞が分泌した産物の混合物を用いる治療」である、という点はしばしば誤解されやすいポイントです。

含有成分の幅

上清液にはHGF(肝細胞増殖因子)、IGF-1(インスリン様成長因子)、KGF(角化細胞増殖因子)、SDF-1、TIMP、コラーゲン合成促進因子など、数十から数百種類とされるサイトカイン群が含まれます。さらに、ナノサイズの細胞外小胞であるエクソソームを介して、毛包幹細胞へ遺伝子調節分子(miRNA)が送達されうることが、基礎研究で示されつつあります。

工業的な培養工程を経るため、ロット単位での品質管理が可能で、PRPに比べて成分の再現性に優位性があります。

PRPと幹細胞培養上清液の決定的な違い

由来と再現性

PRPは「患者本人の血液」が原料であり、その日の体調、年齢、栄養状態、採血のしかたによって、含まれる血小板数や成長因子の濃度が変動します。一方の上清液は、標準化された培養プロトコルに基づき製造されるため、ロット管理・品質試験が可能で、施術ごとの再現性に優れます。

「同じ患者さんに、同じ治療を、何度繰り返しても、ほぼ同じ条件で投与できる」かどうかは、長期治療を組み立てるうえで無視できない論点です。

成分の種類と量

PRPに含まれる成長因子は血小板由来のものが中心で、種類はおおよそ10〜20種類とされます。培養上清液は由来細胞が産生する数十〜数百種類のサイトカインに加え、エクソソームによる遺伝子調節シグナルまでを含み、毛包微小環境への作用が多面的です。

単純な「成長因子の量」よりも「組成の多様性とシグナルの層」を活かせる点が、上清液側の医学的特徴といえます。

エビデンスの現在地

PRPはAGAに対する複数のランダム化比較試験(RCT)が報告されており、毛径や毛密度の改善が観察されています。AGA治療全体の指針については日本皮膚科学会のガイドラインも参照しながら、適応・併用の妥当性を見極める必要があります。

培養上清液は、基礎研究と臨床印象に基づく報告が先行しており、大規模RCTの蓄積はこれからの段階にあります。「歴史の長さ」ではPRPが先行し、「成分設計の自由度」では上清液が先行する、という整理が現時点では妥当でしょう。

併用は可能か──臨床現場での組み合わせ方

PRPと上清液は、作用機序が補完的であるため、併用される場面もあります。たとえばMorpheus8によるマイクロチャネル形成のあとに両者を組み合わせて投与し、自己成長因子と外因性サイトカインの両面から毛包へ働きかける、という戦略が試みられています。

ただし、同一日の同時併用が必ずしも最適とは限りません。投与日を分け、評価時点を変えることで「どちらの効果がどこに効いているのか」を読み解きやすくなる場合もあります。当院では、初期は片方を軸に据え、効果判定後にもう一方を追加する二段階設計を選択することが多くあります。

どちらを選ぶべきか──治療選択の考え方

“自己血由来”のPRPには、「自分のものを使う」という心理的安心感と、免疫学的な拒絶リスクの低さというメリットがあります。一方、”細胞由来”の幹細胞培養上清液には、再現性・成分の多様性・採血不要・短いダウンタイムといった利点があります。

年齢、進行度、過去の治療歴、通院ペース、費用感、注射への抵抗感まで含めて、どちらを軸に据えるかは個別に判断する必要があります。「効くか・効かないか」の二択ではなく、「自分の治療設計の中でどこに位置づけるか」という視点が大切です。

詳細な治療設計や他の選択肢については、毛髪再生医療の関連コラム一覧はこちらからご覧いただけます。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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