エクソソーム製剤の「○兆個配合」表示は品質の証明になるのか|粒子数の測り方と中身2026.07.14
「エクソソーム○兆個配合」「業界最高濃度」——毛髪再生医療の広告でこうした粒子数の表示を目にする機会が増えました。数字が大きいほど効きそうに見えますが、その粒子数はどうやって測られていて、本当に幹細胞培養上清液の品質や効果と結びついているのでしょうか。結論から言えば、粒子数は品質を判断する一つの目安にはなりますが、「数字だけで比較できるもの」ではありません。本稿では、粒子数の測定原理と限界、そして数字の裏で確認すべき項目を、日本美容外科学会会員の森脇医師(AVAN TOKYO 銀座)の視点で整理します。
この記事の要点
・エクソソームの粒子数はNTA(ナノトラッキング解析)やTRPS(抵抗パルス感知)などで測るが、方法・条件で値が変わる。
・「○兆個」の中には非エクソソーム粒子や凝集体が含まれ得るため、粒子数=有効成分量ではない。
・幹細胞培養上清液の中身は成長因子・miRNA・タンパク質の組成で語るべきで、粒子数はその一断面にすぎない。
・ロット証明書(CoA)で無菌試験・マイコプラズマ・エンドトキシンといった安全性検査の結果を確認するのが先。
・広告の粒子数表示より、製造者・検査項目・投与量あたりの根拠を読む姿勢が意思決定を助ける。
エクソソームの粒子数はどう測られているのか
幹細胞培養上清液には、細胞から分泌される直径30〜150nmほどの細胞外小胞(エクソソームを含む)が含まれています。この粒子数を数える代表的な方法が、NTA(Nanoparticle Tracking Analysis)とTRPS(Tunable Resistive Pulse Sensing)です。NTAはレーザー光で粒子のブラウン運動を追跡して個数と粒径を推定し、TRPSは微小な孔を通過する粒子が発生させる電気信号を一つずつ計測します。どちらも「1mL中に○個」という値を出せますが、原理が異なるため同じ試料でも数字がずれることが報告されています。加えて、希釈率・撮影時間・解析ソフトの設定などのパラメータで結果は容易に変動します。「○兆個」という表示だけでは、その数字がどの方法・どの条件で得られたのかまでは読み取れないというのが実情です。
「○兆個配合」だけで幹細胞培養上清液の品質を判断できない理由
NTAやTRPSが数えているのは「エクソソームそのもの」ではなく、その粒径域に入るあらゆる粒子です。培地由来のタンパク質凝集体や脂質粒子まで巻き込んでカウントしていることがあり、粒子数の何割が本当のエクソソームなのかは別の解析(CD9・CD63などのマーカー検出、ウェスタンブロット、電子顕微鏡)で裏取りする必要があります。さらに、粒子1個あたりに含まれるカーゴ(miRNA・タンパク質)の中身と量はドナーや培養条件で大きく変わるため、粒子数が10倍多くても中身が薄ければ生物学的な作用は10倍にはなりません。つまり「○兆個配合」という表示は、幹細胞培養上清液の一断面を切り取った指標にすぎない、というのが医学的に誠実な理解です。
中身は「数」より「組成」で語るべきもの
臨床上意味を持つのは、EGF・FGF・IGF-1・HGF・VEGF・TGF-βといった成長因子の相対的な組成と、それらを毛包周囲のどの細胞に届けられるかという投与設計です。同じ幹細胞培養上清液でも、細胞ソース(臍帯・脂肪・歯髄)、継代数、無血清/血清入りの培養条件、回収・濃縮・凍結融解のプロセスによって組成は変わります。粒子数はこうした「中身のばらつき」の一面しか映しません。毛髪再生医療の関連コラム一覧はこちらで、細胞ソースや培養条件による違いを別記事でも取り上げていますので、粒子数以外の視点も併せて確認することをおすすめします。

ロット証明書(CoA)で確認すべき項目
広告の粒子数より優先度が高いのが、そのロットの安全性検査結果です。ロット証明書(Certificate of Analysis, CoA)には、無菌試験(好気性・嫌気性)、マイコプラズマ試験、エンドトキシン試験、外観・pH、必要に応じて粒子数・タンパク濃度・主要成長因子の測定値などが記載されます。判定欄が「適合」となっているか、規格値と実測値にどの程度のマージンがあるかを見ることで、そのロットが安定して製造されているかを読み取れます。逆に、CoAを提示できない・検査項目が「無菌のみ」にとどまるようなケースは、慎重に判断すべきサインです。特に頭皮への注入は微小な創部を伴うため、無菌性・エンドトキシンの規格が満たされているかは患者側からも確認したい情報です。
患者と医師のあいだで確認したい質問リスト
初診・カウンセリング時、次のような質問を投げかけることで、広告表現に依存しない判断ができます。「この製剤は再生医療等安全性確保法の届出施設で使用されていますか」「ロット証明書を見せてもらえますか」「1回投与あたりの粒子数だけでなく、主要成長因子の情報はありますか」「粒子数の測定はNTA・TRPSどちらの方法ですか」といった具体的な問いです。AGA・薄毛の治療指針については日本皮膚科学会がガイドラインを公開しており、内服・外用の標準治療と再生医療の位置づけを併せて理解しておくと、粒子数表示だけに引きずられない選択がしやすくなります。効果には個人差と適応の限界があり、「○兆個で発毛保証」といった断定表現はどの製剤でも成立しないという前提を、患者・医師の双方で共有することが大切です。
よくある質問
Q. 「1回あたり○兆個配合」の表示があれば、他院より効くと考えて良いですか。
必ずしもそうとは言えません。粒子数はNTAやTRPSといった測定法・希釈条件で値が変わり、エクソソーム以外の粒子も含んでカウントされることがあります。有効成分となる成長因子やmiRNAの組成が明示されていなければ、数字だけの単純比較は難しいと考えるほうが安全です。
Q. 幹細胞培養上清液の安全性はどの検査で確認すれば良いですか。
無菌試験、マイコプラズマ試験、エンドトキシン試験の3項目は最低限確認したい項目です。ロット証明書(CoA)にこれらの結果が「適合」と明記されているかを見ることで、ロットごとの安全性の担保状況を読み取れます。
Q. 粒子数以外に、頭皮治療で重要な指標はありますか。
細胞ソース(臍帯・脂肪・歯髄)、培養条件(無血清/血清入り)、継代数、凍結融解の回数、そして届け方の設計(頭皮注入・ドラッグデリバリー)が挙げられます。粒子数はあくまでその一断面にすぎず、複数の視点で製剤と治療設計を評価することが望まれます。
Q. 広告の粒子数表示に法的な規制はありますか。
医療広告ガイドラインでは、患者の判断に誤解を与える誇大表現や効能保証は禁止されています。「業界最高濃度」「○兆個で発毛保証」といった断定的な文言が並ぶ場合は、まず情報源と検査体制を慎重に確認する姿勢が必要です。
Q. 粒子数が多いほど治療効果も高くなりますか。
単純に比例するとは限りません。粒子数が多くても、粒子内のカーゴ(miRNA・タンパク質)が薄ければ生物学的な作用は比例しない可能性があります。効果は組成・投与ルート・毛周期・患者個々の反応で総合的に決まるため、数字を単独の効果指標として扱わないほうが良いでしょう。
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日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
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