コラム

ステロイド関節注射と幹細胞培養上清液は何が違うのか──「炎症抑制」と「組織修復」で読み解く関節注射の使い分け2026.07.09

「膝や肩に注射をされてきたけれど、そもそもこの注射は何を狙っているのか」──診察室でよく受けるご質問です。関節注射と一言で言っても、ステロイド・ヒアルロン酸・PRP・幹細胞培養上清液など複数の選択肢があり、それぞれ狙っている生物学的な作用がまったく異なります。とりわけステロイドの関節注射と、幹細胞培養上清液の関節注射は、同じ関節に打つ治療でも設計上の軸が根本的に違います。この記事では、AVAN TOKYO 銀座で日々ご相談を受けている森脇医師の視点から、両者の役割の違いを整理し、どのような場面でどちらが選ばれるのかを、適応と限界に誠実に解説します。

この記事の要点

・ステロイド関節注射は「炎症を強力に抑える」ための治療で、即効性がある一方、軟骨や腱への影響から繰り返しにくい。

・幹細胞培養上清液の関節注射は「関節内の炎症環境を整え、組織の修復に適した状態に近づける」ためのアプローチで、作用は緩やかで持続的。

・両者は競合ではなく、狙う軸が違う関節注射であり、状態と時期に応じて使い分けるのが現実的。

・慢性化した変形性関節症や繰り返す関節痛では、ステロイドで抑え込むだけでは限界があるため、上清液という別の切り口が検討される。

・効果と適応には個人差と限界があり、画像・症状・生活動作を踏まえた診断が前提となる。

ステロイド関節注射は「炎症を抑える」ための治療

ステロイド薬(コルチコステロイド)は、強力な抗炎症作用を持つ薬剤です。関節内に投与すると、滑膜炎に伴うサイトカインの産生を素早く抑制し、腫れ・熱感・疼痛を短期間で軽減します。診察室で「打った翌日には歩けるようになった」というお声を耳にするのは、この即効性が理由です。

強い抗炎症作用と即効性がもたらすもの

急性の滑膜炎、関節水腫が多い時期、五十肩の炎症期など、「まずは炎症の火を消したい」局面ではステロイド関節注射は極めて有用です。関節疾患の診療指針については日本整形外科学会のホームページで公開されている一般向け情報も参照になります。

繰り返しにくい理由──軟骨・腱・骨への影響

一方で、ステロイドの関節注射は「何度でも打てる治療」ではありません。頻回投与は関節軟骨のマトリックス合成を抑制する可能性、腱の変性を助長する懸念、局所の骨代謝への影響などが指摘されており、目安として同一関節へのステロイド注射は年に数回程度にとどめる運用が一般的です。つまり「抑え込む力」は強くても、そもそも「治す」ための治療ではないという点を、患者さんと共有しておく必要があります。

joint injection steroid stem cell conditioned media comparison

幹細胞培養上清液の関節注射は「組織修復環境を整える」ための治療

これに対して、幹細胞培養上清液は、間葉系幹細胞を培養したときに細胞が分泌する上清(分泌液)を集めたバイオ製剤です。その中には、TGF-β・IGF-1・FGF・HGFなどの成長因子と、抗炎症性サイトカイン、そしてエクソソームに載って運ばれるmiRNAなどが含まれています。

抗炎症サイトカインと成長因子で炎症サイクルに介入

変形性関節症の関節内では、滑膜由来のIL-1βやTNF-αといった炎症性サイトカインが、軟骨マトリックスの分解と滑膜炎を悪循環させています。幹細胞培養上清液の関節注射では、抗炎症サイトカインで炎症性シグナルを穏やかに調整しつつ、成長因子で滑膜細胞・軟骨細胞の代謝環境を整える働きが想定されています。ステロイドのように炎症を一気に消しにいくのではなく、「炎症で崩れた微小環境を、修復に向く状態へ寄せる」というイメージです。

ステロイドとは異なる時間軸と適応

そのため、幹細胞培養上清液の関節注射は、即日で劇的に痛みが取れるという性質のものではなく、数週間から数か月にかけて緩やかに炎症所見・疼痛スコア・可動域が変化していく形になります。効果には個人差があり、進行した関節破壊(末期の変形性関節症など)では期待できる範囲は限定的です。「軟骨そのものを再生させる注射」ではなく、あくまで「関節内の炎症環境に働きかけ、修復に有利な条件を整える関節注射」であるという理解が重要です。

実際の使い分け──どちらを、いつ選ぶか

両者を「どちらが優れているか」で比べるのは、実臨床ではあまり意味のない問いです。狙う軸そのものが違うためです。

急性期の強い炎症・水腫にはステロイドが優位

関節が熱を持って腫れ、夜間痛が強く、水がたまっている──こうした急性局面では、ステロイドで早く炎症を鎮めるほうが、その後のリハビリや運動療法にスムーズにつなげられます。ここで無理に上清液だけで対応しようとすると、痛みが強く動かせない期間が長引きかねません。

慢性・繰り返す痛みには上清液の関節注射という選択

一方、慢性化した変形性関節症、遷延する五十肩、ヒアルロン酸の効き目が頭打ちになってきた膝など、「炎症を抑えるだけでは根本的に前に進まない」局面では、幹細胞培養上清液の関節注射が候補になります。ステロイドを繰り返すことへの不安がある方にとっても、別の作用軸を持つ関節注射があるという点は選択肢を広げます。詳しくは幹細胞培養上清液の関節注射のご案内もあわせてご覧ください。

まとめ

ステロイドの関節注射と幹細胞培養上清液の関節注射は、同じ「関節注射」というカテゴリに入っていても、目的も時間軸もまったく異なる治療です。強く抑え込むのか、環境を整えて修復に寄せるのか──状態・時期・生活動作の目標を踏まえて、両者を対立させずに設計することが、慢性関節痛と長く付き合ううえで現実的なアプローチとなります。関節注射を検討される際は、必ず医療機関で診断と適応を確認したうえで、ご自身に合った選択肢についてご相談ください。

よくある質問

Q. ステロイドの関節注射と幹細胞培養上清液の関節注射は同時に受けられますか?

同日に同じ関節へ両方を投与することは通常行いません。作用の時間軸が異なるため、まずステロイドで急性炎症を鎮め、状態が落ち着いた段階で幹細胞培養上清液の関節注射に切り替える、といった時系列での使い分けが現実的です。適応と間隔は診察のうえで個別に判断されます。

Q. ステロイド関節注射を長く続けてきましたが、上清液に切り替えたほうがよいですか?

一律にお勧めできるものではありませんが、ステロイドの効果が短くなってきた、あるいは頻度を上げないと持たない状態が続いているなら、軟骨や腱への影響も踏まえて、幹細胞培養上清液の関節注射を含めた治療設計の見直しを検討する価値はあります。

Q. 幹細胞培養上清液の関節注射で軟骨は元に戻りますか?

現時点で「軟骨そのものを元通りにする治療」とまで断定できる根拠はありません。期待しているのは、関節内の炎症環境を整えることで、痛み・可動域・日常動作の改善を目指すことです。効果には個人差と限界があります。

Q. どのくらいの間隔で関節注射を受ければよいですか?

関節や病態、初回の反応によって異なりますが、幹細胞培養上清液の場合は数週間〜数か月おきに複数回のシリーズで導入し、その後は経過を見ながら維持間隔を延ばしていく設計が多くとられます。ステロイドの関節注射は、同一関節では回数を絞る運用が原則です。

Q. 関節に感染や強い炎症が疑われる場合でも打てますか?

活動性の感染性関節炎が疑われる場合、関節注射の適応にはなりません。まずは感染の有無を評価することが先決です。全身状態のコントロールが不良な場合も、慎重な判断が必要になります。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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