五十肩の痛みは今「炎症期」か「拘縮期」か──病期で変わる幹細胞培養上清液関節注射の狙い方2026.07.01
「肩が急に上がらなくなった」「夜も痛くて眠れない」──40代・50代を境に、肩の激痛と可動域制限に悩む方が急増します。その多くは五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎ですが、実は病態は一様ではなく、時期によって痛みの性質も、治療の狙いも大きく変わります。近年、保存的な治療の選択肢のひとつとして幹細胞培養上清液を用いた関節注射が注目されていますが、この病態に対して「いつ・どこに・何を狙って」注射するのかを整理しておかないと、期待値と現実がずれてしまいます。本コラムでは、その病期を軸に、上清液関節注射の位置づけを整形外科的な視点から解説します。
五十肩の病期を知ることが治療設計の出発点
五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩と呼ばれる病態を含みます)は、多くの場合、大きく3つの病期を経て推移します。教科書的には「炎症期」「拘縮期」「回復期」と分類され、それぞれ数か月から半年、症例によっては2年以上に及ぶこともあります。この時間軸を理解しないまま「痛みを止める注射」だけを繰り返しても、可動域は戻らず、治療の満足度は下がってしまいます。まずは今どの段階にいるのかを見極めることが、治療設計の出発点です。
炎症期──夜間痛と安静時痛が主役の時期
発症から3か月前後までの初期は、関節包や滑膜に強い炎症が生じ、じっとしていても痛む、夜間に眠れないほど痛むといった訴えが中心になります。この時期に無理に動かすと、かえって炎症を長引かせることがあります。まずは炎症のサイクルを抑え、痛みで眠れない状態を脱することが第一の目標になります。
拘縮期──痛みは軽くなるが「動かない肩」に変わる時期
3か月〜1年ほどの経過では、鋭い痛みは徐々に和らぐ一方、関節包が線維化して硬くなり、腕を挙上できない・後ろに回せないといった可動域制限が前面に出てきます。この段階では痛みを抑えるだけでは不十分で、拘縮した関節包に対して運動療法・ストレッチを丁寧に重ねていくことが不可欠です。
回復期──動きが戻り始めるが数年を要することもある時期
半年から2年以上をかけて、徐々に関節可動域が回復していく時期です。ただし、自然経過だけに委ねると「肩は動くようになったが完全には戻らない」という結果になる方も少なくありません。この時期にリハビリとどのような介入を組み合わせるかが、日常生活の質を左右します。

幹細胞培養上清液の関節注射で狙えるレイヤーとは
「炎症環境」を整えるという発想
幹細胞培養上清液には、培養された幹細胞が分泌した成長因子・サイトカイン・エクソソームなどが含まれています。これらは組織を直接「再生」させる魔法の薬ではなく、関節内の炎症と修復のバランスに働きかける「環境調整因子」として位置づけるのが実際的な理解です。この病態の主戦場である関節包・滑膜の炎症サイクルに対し、生物学的なアプローチで介入する選択肢のひとつと考えられます。
病期ごとに変わる注射の「狙い」
炎症期であれば、強い炎症・夜間痛を抑えるための保存的な選択肢のひとつとして、上清液の関節注射が候補になり得ます。拘縮期に入ってからは、注射単独で拘縮を「解除する」ことは期待できませんが、リハビリを進めやすくするための炎症コントロールとして併用される場面があります。石灰沈着性腱炎や腱板部分断裂などを合併している場合は、標的とすべき組織が肩関節腔・肩峰下滑液包・腱付着部と分かれるため、エコーガイド下で「どこに打つか」を精密に選び分けることが重要です。
期待していい効果と、してはいけない期待
上清液の関節注射は「1回で肩が元通りに動くようになる注射」ではありません。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらでも整理しているように、疼痛スコアや可動域を客観的に評価しながら、数週間から数か月単位で効果を判定していく治療です。「動かせる肩」に戻すには、注射で炎症を抑えつつ運動療法で拘縮に対処するという「組み合わせ」が前提となります。
五十肩に対する上清液関節注射を検討する前に
「肩の激痛=五十肩」と決めつけない診断の順序
肩の痛みの原因は肩関節周囲炎に限りません。腱板断裂、石灰沈着性腱炎、変形性肩関節症、頸椎症性の放散痛など、鑑別すべき病態は多岐にわたります。関節疾患の情報については日本整形外科学会が公開している患者向け解説も参考になります。診断が定まらないまま安易に注射を選択すると、「効かない注射を繰り返す」結果になりかねません。まずは問診・身体診察・画像検査で「なぜ肩が痛むのか」を突き止めることが優先です。
運動療法・リハビリとの併用が前提
五十肩、とくに拘縮期以降は、注射単独では治療設計が完結しません。関節可動域訓練・肩甲上腕リズムの再教育・姿勢調整などを組み合わせて初めて、日常動作への復帰が現実的になります。上清液の関節注射は、あくまで「動かせる状態」を取り戻すためのリハビリを支えるピースの一つとして捉えるべきです。
誠実な適応の線引き
活動性の感染がある方、コントロール不良の全身疾患をお持ちの方、著しい関節破壊を伴う方などは、幹細胞培養上清液の関節注射の適応から外れます。また効果には個人差があり、すべての方が同じ手応えを感じるわけではありません。「万能ではない」「第一選択でもない」という前提を医師と共有できていることが、長い治療の満足度を支える土台になります。
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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
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