コラム

人工膝関節置換術と保存療法の分かれ目はどこか──変形性膝関節症の手術適応と幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢2026.07.08

「膝の痛みが強くて日常生活に支障が出ている」「病院で人工膝関節置換術(TKA)を勧められたが、まだ手術に踏み切る決心がつかない」——そのように迷っている方は少なくありません。変形性膝関節症は加齢とともに増える疾患ですが、進行の程度によって取りうる選択肢はまったく異なります。ここでは、手術適応の実際と保存療法で粘れる範囲、そして幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢が入る余地について、整形外科的な観点から整理します。

この記事の要点

・変形性膝関節症で人工膝関節置換術が推奨されるのは、日常生活に強い支障が続き画像上も高度な関節破壊が進んでいる段階が中心です。

・保存療法で粘れる目安はKellgren-Lawrence分類のグレードII〜III前半までで、体重管理・大腿四頭筋の筋力訓練・装具療法が土台となります。

・薬物療法や関節内注射は痛みや炎症のコントロールに使われますが、ステロイド反復投与には軟骨・腱への悪影響という限界があります。

・幹細胞培養上清液の関節注射は関節内の炎症環境に働きかけうる選択肢として位置づけられますが、軟骨そのものを再生させる治療ではなく、進行例の適応外は明確です。

・手術か保存療法かは、画像だけでなく痛みの強さ・機能障害・生活背景を掛け合わせて決める話であり、単一の指標では結論は出ません。

人工膝関節置換術が勧められるのはどの段階か

人工膝関節置換術(TKA)は、変形性膝関節症の終末期に対して確立された治療法です。日本整形外科学会をはじめとする各種指針では、次のような条件が重なる段階が手術適応の目安とされています。

画像所見の目安

Kellgren-Lawrence分類のグレードIV(重度)や、内反・外反変形が進み関節裂隙がほぼ消失した段階です。骨同士がぶつかるようになり、関節の適合性そのものが破綻していきます。

症状と機能の目安

安静時痛や夜間痛が残る、階段昇降や歩行距離が極端に制限される、装具や薬物療法・関節内注射でコントロールできない——こうした状況が続く段階では、手術によって痛みと機能が大きく改善する可能性が高まります。一方で手術には全身麻酔・入院・リハビリ期間、感染や血栓症のリスク、耐用年数の問題(一般に15〜20年程度)もあります。「画像が進んだから即手術」ではなく、いつ手術を行うのがその方にとって最良かを見極める視点が欠かせません。

膝 関節 治療 再生医療

変形性膝関節症で保存療法が中心となるステージ

Kellgren-Lawrence分類のグレードI〜III前半までは、保存療法が第一選択です。ここで大切なのは、単に痛み止めを飲むことではなく、膝の負担を減らす環境作りと、関節を支える筋肉の力を取り戻すことです。

体重管理と運動療法

体重が1kg減ると、歩行時の膝への負担は約3〜4kg減るとされます。大腿四頭筋を中心とした筋力訓練は、関節にかかる荷重を筋肉が受け止める分だけ減らしてくれます。

装具と歩き方の工夫

足底板(インソール)や膝装具、必要に応じて杖の使用は、関節を「守りながら動かす」ために有効です。O脚傾向が強い方では、外側楔状足底板が内側コンパートメントの負担軽減に働くことがあります。

薬物療法と関節内注射

NSAIDsやアセトアミノフェンといった内服、ヒアルロン酸関節内注射、必要に応じてステロイド関節内注射が組み合わされます。ただし、ステロイドの反復注射は軟骨・腱への悪影響が指摘されており、繰り返し使い続ける治療ではないと理解しておくことが重要です。

幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢の立ち位置

保存療法と手術のあいだに、幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢が入る余地があります。これは、脂肪由来などの幹細胞を培養した際の分泌物(成長因子・サイトカイン・エクソソームなど)を含む液体を、関節腔内へ投与する治療です。

作用の考え方

変形性膝関節症の痛みの主体は、実は軟骨そのものではなく、関節内で慢性化する滑膜炎など炎症環境にあることが知られています。幹細胞培養上清液に含まれる抗炎症サイトカインや成長因子は、この関節内の炎症サイクルに働きかけうる、というのが基礎研究レベルで想定される作用の一つです。ただし臨床エビデンスは症例報告・観察研究の段階が中心であり、「軟骨を再生させる注射」と断定できる段階にはありません。

適応と限界

KL分類グレードII〜III前半までで、痛みの主因が炎症性の要素にあるケースでは選択肢として検討する余地があります。関節裂隙がほぼ消失した重度例や下肢アライメントが破綻した症例では、注射で解決できる範囲を超えていると考えたほうが誠実です。関節内の活動性感染がある方、コントロール不良の全身疾患がある方は非適応です。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもあわせてご参照ください。

手術・保存療法・再生医療をどう組み合わせるか

変形性膝関節症の治療は、単一の手段で完結するものではありません。年齢・活動性・画像所見・痛みの強さ・仕事や生活の状況を総合して、いま何を優先し、何を次の一手にとっておくかを設計していきます。関節疾患全般の情報については、日本整形外科学会のガイドラインも参照する価値があります。

「手術しか道はない」と断言される前に、進行度がまだ手術適応の一歩手前であるなら、体重管理・運動療法・装具といった土台を整えたうえで、幹細胞培養上清液の関節注射を含む保存的選択肢を検討する余地は残されています。逆に、すでに終末期に差しかかっている方に対して、注射で手術を回避できるかのように語ることは医療者として誠実ではありません。手術・保存療法・再生医療を対立する選択肢として捉えるのではなく、時間軸のなかでどう繋いでいくかという発想が大切です。

よくある質問

Q. TKAを勧められましたが、まだ手術は避けたいです。保存療法で粘れますか?

画像上のグレードと症状の強さは必ずしも一致しません。KL分類グレードII〜III前半で、安静時痛や夜間痛が強くない段階であれば、体重管理・運動療法・装具、関節内注射など保存療法で経過を見る余地があります。ただし、痛みで生活が明らかに制限されているなら、我慢を続けること自体が別の問題を生みます。整形外科での再評価が第一です。

Q. 幹細胞培養上清液の関節注射で軟骨は再生しますか?

現時点で「軟骨を再生させる」と断定できる治療ではありません。この治療が働きかけうるのは、痛みの主体である関節内の炎症環境や滑膜の状態です。臨床データは症例報告・観察研究レベルが中心であり、期待は誇張せず、限界とともに理解して選ぶべき治療です。

Q. ヒアルロン酸で効かなくなった膝でも幹細胞培養上清液は選択肢になりますか?

ヒアルロン酸は関節液の粘弾性を補う物理的アプローチであるのに対し、幹細胞培養上清液は関節内の炎症環境に働きかけうる生物学的アプローチという狙いの違いがあります。ただし、関節破壊がすでに進行している場合はどちらの注射でも限界があります。まずは現在のKL分類と症状の再確認が先決です。

Q. 関節注射は何回くらい受ければよいですか?

標準化された「◯回で完成」というプロトコルは確立されていません。初回投与後の痛み・可動域・日常動作の変化を客観的に評価し、追加投与の要否を経過ごとに決めていきます。反応が乏しい場合は、整形外科的再評価に切り替える判断も重要です。

Q. 幹細胞培養上清液の関節注射が向かないのはどんな人ですか?

関節内の活動性感染がある方、コントロール不良の全身疾患がある方、高度に関節破壊が進み下肢アライメントが破綻している方などは、この治療の適応外と考えます。TKAが妥当な段階に来ている方に無理に注射で引き延ばすことは推奨しません。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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