コラム

変形性股関節症のどの段階までなら関節注射で粘れるのか──前期・進行期・末期と幹細胞培養上清液の適応の境界2026.07.01

「歩き始めや階段の上り下りで鼠径部が痛む」「立ち上がる瞬間に股関節が引っかかる」——このような症状で受診し、変形性股関節症と診断された方のなかには、「まだ手術は避けたい」「保存的に粘る手段はないのか」と悩む方が少なくありません。近年、そうした患者さんからのご相談で選択肢の一つとして話題に挙がるのが、幹細胞培養上清液を用いた関節注射というアプローチです。

変形性股関節症は進行性の疾患であり、病期によって関節内で起きていることも、治療で狙える効果も大きく変わります。「どの段階までなら関節注射で粘れるのか」を冷静に判断するためには、疾患のステージを整理したうえで、上清液関節注射の作用機序と限界を正しく理解しておく必要があります。

変形性股関節症の病期と関節内で起きていること

変形性股関節症は、関節軟骨の摩耗を軸に少しずつ進行する疾患です。臨床では前期・進行期・末期という時間軸で語られることが多く、それぞれで関節内の状態と患者さんが感じる症状が変わってきます。

前期──関節裂隙が保たれている段階

前期は、レントゲンで関節裂隙(骨と骨のあいだの隙間)がまだ保たれている段階です。荷重を長時間かけたあとの股関節の違和感、運動後の鈍い痛み、朝の動き始めの引っかかり感などが主な症状です。

この時期に関節の中で起きているのは、軟骨表層の微細な傷や滑膜の軽度な炎症です。まだ骨そのものは大きく変形していません。この段階であれば、生活動作の調整・体重管理・運動療法などの保存療法だけで長く付き合っていける方も多く、注射に急いで踏み切る必要は必ずしもありません。

進行期──関節裂隙が狭くなり、痛みが日常に食い込んでくる

進行期は、関節裂隙が明らかに狭くなり、軟骨下骨に硬化像(骨硬化)や骨嚢胞、辺縁の骨棘といった変化が現れる段階です。歩き始めの痛みが持続するようになり、階段や靴下履きなど日常動作で痛みを避ける動きが出てきます。滑膜炎による関節液の増加や、微小な炎症サイクルが痛みを長引かせる要因になってきます。

この段階が、幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢を臨床的に検討する場面が最も多い時期です。ただし「進行を確実に止める」「軟骨を元通りに再生させる」といった断定的な効果を約束できるものではなく、あくまで関節内の炎症環境に働きかける保存的アプローチとしての位置づけになります。

末期──骨と骨が直接ぶつかる段階

末期に至った変形性股関節症では、関節裂隙が消失し、荷重時に骨と骨が直接接触する状態に近づきます。臼蓋・大腿骨頭ともに著しく変形し、安静時痛や夜間痛、跛行、可動域制限が顕著になります。この段階に至ると、保存療法や関節注射で得られる恩恵は限定的で、患者さんの活動性や年齢を踏まえて人工股関節全置換術(THA)を含めた手術療法の適応を検討する必要が出てきます。

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幹細胞培養上清液の関節注射で狙えること・狙えないこと

変形性股関節症に対する幹細胞培養上清液の関節注射は、細胞そのものを移植するのではなく、間葉系幹細胞を培養した際に細胞から分泌された成長因子・サイトカイン・エクソソームなどを含む上清液を、関節内へエコーガイド下などで届ける治療です。

関節内の炎症環境に働きかける、というアプローチ

上清液の関節注射で臨床的に期待される主な作用は、関節内の炎症性サイトカインを抑える方向のシグナルを与え、滑膜炎による痛みや腫れを軽減しうる点にあります。同時に、TGF-βやIGF-1といった成長因子が軟骨細胞や滑膜細胞に働きかけることで、関節内の代謝環境を修復側へ傾ける可能性も基礎研究レベルで報告されています。

ただし、すでに失われた関節軟骨や、進行してしまった骨の変形をもとに戻す治療ではありません。ここは非常に重要な線引きです。関節疾患の情報については日本整形外科学会のウェブサイトも参照いただくと、変形性関節症の一般的な進行と治療体系のなかでの位置づけがつかみやすくなります。

病期別に見た関節注射の現実的な期待値

上清液の関節注射の位置づけは、変形性股関節症の病期によって現実的な期待値が変わります。

・前期〜進行期前半:滑膜炎による痛みや関節液貯留がある場合、症状緩和を目指した選択肢の一つとして検討しうる段階です。

・進行期後半:日常動作の負担が大きい場合、痛みの緩和と関節内環境の維持を目的とした選択肢になりますが、単独治療で完結するものではなく、運動療法や生活動作の見直しとの併用が前提になります。

・末期:期待できる恩恵は限定的で、手術適応の評価が優先されます。「注射で粘る」ことに時間を費やすより、整形外科での手術タイミングの相談を優先すべき段階です。

「注射だけ」で完結させない治療設計

変形性股関節症の保存療法において、関節注射はあくまで一つのピースにすぎません。股関節周囲筋(中殿筋・腸腰筋など)の筋力強化、体重管理、痛みを誘発する動作の見直し、必要に応じた杖や装具の活用など、関節への負担を減らす取り組みと組み合わせて初めて、上清液関節注射の効果を実感しやすい設計になります。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらで治療の考え方や適応の目安をご確認いただけます。

「まだ粘れるか、そろそろ手術か」の判断軸

外来で最も相談が多いのが、「自分は関節注射で粘れる段階なのか、それとももう手術を考える段階なのか」という問いです。この判断には、画像所見・症状・生活の質という3つの軸が関わります。

画像所見・症状・生活動作の3軸で見る

画像所見では、関節裂隙の残存・軟骨下骨の変化・骨頭の変形の程度が指標になります。症状面では、痛みの頻度・強度・夜間痛や安静時痛の有無、そして跛行の程度が判断材料です。生活動作の視点では、階段昇降・靴下履き・長距離歩行がどこまで可能か、痛みで諦めている活動があるかが重要になります。

これら3軸のいずれかが極端に悪化している場合、注射で粘る前に整形外科で手術適応の相談を進めた方がよい場面もあります。逆に、画像上は進行期でも症状が軽く生活の質が保たれている患者さんであれば、上清液を用いた関節注射を含めた保存療法で付き合っていく選択肢が現実的です。

効果判定と見直しのタイミング

関節注射の効果判定は、施術後おおむね1〜3か月を目安に、痛みスコア・可動域・日常動作の変化で客観的に評価します。数か月経っても症状の改善が乏しい場合や、明らかに進行が加速している場合には、「注射を継続する」「治療内容を変更する」「整形外科で手術適応を再評価する」のいずれかへ切り替える判断が必要です。効果には個人差があり、すべての方に十分な症状緩和が得られるわけではないことは、初回の相談時に率直にお伝えしています。変形性股関節症は「一度の注射で終わる病気」ではないという前提で、通院設計と生活習慣の両輪を組み立てていくことが、長く歩き続けられる股関節を守る近道です。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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