コラム

橋本病とバセドウ病で抜け毛の出方が変わるのはなぜ?甲状腺機能低下と亢進の違い2026.07.19

女性の慢性的な抜け毛の背景に、実は甲状腺のトラブルが隠れているケースは珍しくありません。とくに橋本病(慢性甲状腺炎による機能低下)とバセドウ病(機能亢進)は、どちらも「甲状腺の病気」として一括りにされがちですが、毛髪に起きている現象はまったく別物です。低下と亢進で薄毛の出方・進み方・回復のパターンが違うことを理解しておかないと、内分泌治療が始まっているのに「なぜか抜け毛だけ止まらない」といった状況に戸惑いやすくなります。ここでは甲状腺機能異常と毛髪の関係を医学的に整理し、そのうえで幹細胞培養上清液による毛髪再生医療をどう位置づけるかを森脇医師の視点で解説します。

この記事の要点

・橋本病(機能低下)では毛周期の休止期化が進み、全体的にコシのない細い毛が増えていく傾向にある。

・バセドウ病(機能亢進)では毛周期が短縮し、髪が伸びきる前に抜けていくパターンが見られる。

・眉毛外側1/3の脱落は古典的に甲状腺機能低下症のサインとして知られる。

・甲状腺ホルモンが正常化しても、毛周期の再同期には数か月のタイムラグがある。

・甲状腺治療で数値が落ち着いても薄毛が続く場合、上清液を含む頭皮環境へのアプローチが選択肢になりうる。

橋本病(甲状腺機能低下)で毛髪に起きること

橋本病は自己抗体(抗TPO抗体・抗Tg抗体)によって甲状腺組織がゆっくり破壊され、甲状腺ホルモン(FT4)の分泌が低下する疾患です。日本では中年女性を中心に有病率が高く、抜け毛を主訴に受診したら潜在性甲状腺機能低下症が見つかった、というケースは日常的にあります。

毛周期が「休止期」に傾く

甲状腺ホルモンは全身の代謝を制御しており、毛母細胞の分裂・タンパク合成にも関わります。ホルモンが不足すると成長期が短くなるだけでなく、多くの毛包が本来より早く休止期へ移行してしまいます。結果として、シャンプーやブラッシングのたびに抜ける毛が増え、いわゆる「びまん性の休止期脱毛」パターンとして頭部全体に広がっていきます。

質感の変化──細く、乾き、コシがなくなる

低下症では髪1本1本のキューティクルの整列も乱れ、パサつき・広がり・つやの喪失が同時に進みます。「以前のセットが決まらない」「地肌が透けて見える範囲が広がった」と気づくのは、単純な本数の減少より先に毛質の変化として現れるためです。この段階でAGAと勘違いして自己流の対策を始めると、原因である甲状腺の治療が遅れる危険があります。

眉毛外側1/3の脱落は古典的サイン

眉尻の外側3分の1が薄くなる所見(Queen Anne signと呼ばれる)は、古くから低下症の身体所見として教科書に記載されてきました。頻度は必ずしも高くありませんが、頭髪の変化と重なっているときは内分泌評価を検討する目安になります。

バセドウ病(甲状腺機能亢進)で毛髪に起きること

バセドウ病はTSH受容体抗体が甲状腺を過剰に刺激し、ホルモン(FT4)が過剰分泌される疾患です。動悸・体重減少・発汗過多が有名ですが、実は薄毛も少なくない随伴症状のひとつです。

毛周期の「圧縮」が起きる

低下症とは対照的に、亢進症では代謝が過剰に速く回るため、毛包が成長期を早く駆け抜けて次のサイクルに入ります。毛包1つあたりの「寿命」が短縮されるイメージで、髪が本来の長さまで伸びきる前に抜けていくため、全体のボリュームが薄く見えるようになります。

細く、腰のない毛に置き換わる

亢進症で治療前に見られる毛は、細く、直毛化して腰がなくなることがあります。抗甲状腺薬(メチマゾール・プロピルチオウラシル)による薬剤性脱毛が加わると、「治療を始めたら抜け毛が悪化した」と感じることもありますが、これは多くの場合可逆的です。

寛解後もしばらく抜けることがある

甲状腺ホルモンが正常化しても、圧縮されていた毛周期が再同期する過程で数か月にわたって抜け毛が続くことがあります。数値だけを見て「もう治ったはず」と焦らないことが大切です。

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甲状腺治療後も抜け毛が続く人に幹細胞培養上清液という選択

甲状腺機能が正常化しても、数か月〜半年ほど抜け毛が続くのは前述の通り生理的な範疇です。しかし、正常化から半年経っても回復感が乏しい、あるいはAGA・FAGA・鉄欠乏など他の要因が重なっている場合には、頭皮環境を整えるアプローチが加わることで回復曲線を後押しできる可能性があります。ここで登場するのが幹細胞培養上清液を用いた毛髪再生治療です。

働くレイヤーとメカニズム

幹細胞培養上清液は間葉系幹細胞を培養した際の上清(分泌産物)で、VEGF・IGF-1・HGF・FGFなど毛包の微小環境に関わる成長因子、そしてエクソソームに乗ったmiRNAなどを含みます。細胞そのものを移植する治療ではなく、毛包周囲の血流・免疫・線維化バランスに対して「回復方向のシグナル」を送る、シグナル療法として位置づけられます。

甲状腺の患者に対して優先すべき順序

甲状腺疾患を持つ人に上清液治療を提案するときは、必ず「内科的コントロールが安定していること」を前提とします。TSH・FT4が乱高下している時期に頭皮だけを治療しても、抜け毛の背景要因が抑えられていないため成果が伴いにくく、患者の落胆にもつながります。

併存する自己免疫疾患への配慮

自己免疫性の甲状腺疾患は、他の自己免疫疾患(円形脱毛症・尋常性白斑・関節リウマチなど)を併発することがあります。頭皮に円形脱毛症が併存している場合、上清液治療は円形脱毛症を「治す」治療ではないため、皮膚科的治療との併行や役割分担が必要です。

受診と検査の順序──何から始めるか

抜け毛を主訴に来院された方のうち、問診や視診で甲状腺疾患が疑われる場合は、TSH・FT4・抗TPO抗体・抗Tg抗体などの血液検査を優先します。同時にフェリチン・亜鉛・ビタミンDなどの栄養評価も並走させ、AGA・FAGAのパターンが重なっていないかを診察します。脱毛症の鑑別診療については日本皮膚科学会のガイドラインも参照してください。

甲状腺の治療自体は内科・内分泌科と連携し、頭皮側の対応として幹細胞培養上清液や外用治療などを組み合わせるハイブリッドが現実的です。他の毛髪関連のテーマは毛髪再生医療の関連コラム一覧はこちらから確認できます。

よくある質問

Q. 甲状腺の治療を始めたのに、抜け毛が逆に増えた気がします。失敗でしょうか。

バセドウ病の治療開始直後や、橋本病でレボチロキシン導入後の数週間は、毛周期の再同期の過程で一過性に抜け毛が増えることがあります。多くは3〜6か月かけて落ち着きます。ただし急激な悪化・頭皮の炎症・円形の脱毛斑を伴う場合は、放置せず主治医に相談してください。

Q. 甲状腺の数値が正常なのに薄毛が進んでいます。関係ないと考えて良いですか。

TSHが基準範囲内でも、潜在性甲状腺機能低下症や自己抗体陽性の状態が毛周期に影響していることがあります。フェリチン・ビタミンD・女性ホルモンなど他の要因と合わせて評価する必要があります。

Q. 甲状腺疾患があっても幹細胞培養上清液の頭皮治療は受けられますか。

甲状腺ホルモンのコントロールが安定していれば禁忌ではありません。ただし治療調整の途中や自覚症状が強い時期は優先順位を下げ、内科的コントロールを整えることを最優先にします。

Q. 眉毛の外側だけ薄くなってきました。頭皮ケアだけで戻りますか。

眉外側の脱落は甲状腺機能低下症のサインとして知られています。眉のケアより先に血液検査で甲状腺と鉄・栄養状態を確認し、必要な内科的治療を優先することをおすすめします。

Q. 幹細胞培養上清液は甲状腺ホルモンそのものに影響しますか。

現時点でこの治療が甲状腺ホルモンの分泌や抗体価を変えるという確立したエビデンスはありません。あくまで頭皮の微小環境に働きかける治療であり、甲状腺そのものの治療を代替するものではありません。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

ECFMG Certificate 取得

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