腱板断裂は「切れたら縫うしかない」のか──断裂サイズと脂肪変性から考える幹細胞培養上清液の肩関節注射という保存的選択2026.07.05
「肩が上がらない」「夜に肩が痛くて眠れない」という症状で整形外科を受診したとき、MRIで腱板断裂が指摘され不安になる患者さんは少なくありません。「切れているのだから、いずれ手術で縫うしかない」と説明された経験のある方もいらっしゃるでしょう。しかし実際には、すべての腱板断裂が即座に手術適応となるわけではなく、断裂サイズ・脂肪変性の程度・年齢・活動性・症状の重さを総合して、保存的に粘る選択肢が十分に検討されます。近年ではその保存療法の一手として、幹細胞培養上清液を用いた肩関節注射が注目されています。今回は、腱板断裂の重症度をどう読み、上清液注射という選択肢がどこに位置づけられるのかを森脇医師の視点で整理します。
この記事の要点
・腱板断裂は「切れたら即手術」ではなく、断裂サイズと脂肪変性(Goutallier分類)で治療方針が変わる
・小~中断裂で脂肪変性が軽度な例では、保存療法が第一選択として検討されることが多い
・幹細胞培養上清液の肩関節注射は、関節・滑液包の炎症を鎮め、腱周囲の修復環境を整える保存的選択肢
・大断裂・脂肪変性が高度に進行した例では上清液注射の限界があり、手術評価が優先される
・注射単独で機能は戻らない──運動療法との併用と、客観的な効果判定の設計が欠かせない
腱板断裂は「切れたら即手術」なのか
腱板とは肩関節を覆う4つの腱(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の総称で、肩の細やかな動きを制御する要となる組織です。加齢・使いすぎ・外傷などの要因で、この腱の一部または全層が損傷する病態が腱板断裂です。
実は、この病態は必ずしも症状を伴うわけではありません。MRIでは50代以上の一定割合に無症候性の腱板断裂が見つかることが知られており、「切れていても痛みや大きな機能障害がない」ケースも存在します。そのため、画像所見だけで手術適応を機械的に決めることはできません。症状・活動要求・断裂サイズ・脂肪変性の進行度を総合し、保存療法で経過を見るか手術で修復するかが判断されます。
断裂サイズと脂肪変性という二つの物差し
重症度を評価するうえで重要なのが、断裂サイズ(小・中・大・広範囲)と、腱の脂肪変性の程度(Goutallier分類:Stage 0〜4)です。
断裂が小さく脂肪変性も軽度(Stage 0〜1)であれば、腱の実質は比較的保たれており、保存療法や上清液注射で組織環境を整える余地があります。一方、大断裂で脂肪変性がStage 3〜4まで進行した例では、腱そのものが萎縮・脂肪化しており、注射で炎症環境を整えても腱の実質を戻すことには限界があります。この場合、機能改善を目指すなら整形外科での手術評価が優先されます。関節疾患の情報については日本整形外科学会のガイドラインも参照ください。

幹細胞培養上清液の肩関節注射で狙える範囲
幹細胞培養上清液は、幹細胞を培養する際に分泌される成長因子・サイトカイン・エクソソームなどの集合体です。腱の断裂そのものを「注射で縫合する」治療ではありませんが、関節腔内・肩峰下滑液包にエコーガイド下で投与することで、腱周囲の炎症と滑液包炎を鎮めながら腱付着部の微小環境に働きかけることが期待されます。
保存療法の一構成要素として位置づける
上清液を用いた肩関節注射は、保存療法の中で「炎症・疼痛を抑える」層と「腱周囲の修復環境を整える」層の両方に関与しうる選択肢です。ただし、これはあくまで保存療法の一要素であり、単独で腱板断裂を根治する治療ではありません。ステロイド局所注射・ヒアルロン酸・運動療法・体外衝撃波などの既存治療と並べて比較しながら、患者ごとに最適な組み合わせを設計する姿勢が重要です。
運動療法との組み合わせが前提
注射で痛みが軽減しても、それだけで肩の可動域や筋力が自動的に戻るわけではありません。三角筋や肩甲骨周囲筋の再教育を含む運動療法との併用が、機能回復の土台となります。上清液の肩関節注射で炎症を鎮めながらリハビリで機能を戻していく——この二段構えの設計が現実的なアプローチです。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもご参照ください。
上清液注射の限界を正直に線引きする
すべての腱板断裂に上清液注射が向くわけではありません。大断裂で腱の広範囲が失われている、脂肪変性が高度で腱の実質が劣化している、若年で高い活動性を求める、外傷による完全断裂で機能障害が明確——このような症例では、注射で組織環境を整えても機能回復には明確な限界があり、鏡視下手術による腱板修復術のほうが妥当な選択となります。
また、活動性の感染・コントロール不良の全身疾患・高度な関節破壊がある場合は、上清液注射の慎重・非適応の対象となります。「注射だけで手術を回避できる」と過度に期待するのではなく、担当医とともに断裂の重症度を正しく評価し、注射・運動療法・手術という選択肢の中で最も現実的な組み合わせを設計することが大切です。
よくある質問
Q. 腱板断裂が見つかったら必ず手術になりますか?
必ずしも手術になるわけではありません。断裂が小さく脂肪変性が軽度で症状も限定的な場合、保存療法が第一選択となることが多く、幹細胞培養上清液を用いた肩関節注射も保存的選択肢の一つとして検討されます。ただし大断裂や脂肪変性が高度な例では、整形外科での手術評価が優先されます。
Q. 上清液を打てば切れた腱がつながりますか?
上清液の肩関節注射は「切れた腱を直接つなぐ」治療ではありません。関節腔内・滑液包の炎症を鎮め、腱周囲の修復環境を整えることを狙う保存的アプローチです。断裂そのものを縫合する必要がある症例では、手術での修復が必要となります。
Q. 何回くらい打てば効果が判定できますか?
効果判定は数週〜数か月かけて、疼痛スコア・可動域・日常動作の変化などで客観的に行います。反応が乏しい場合は、継続・変更・整形外科的再評価への切り替えを検討します。効果には個人差と限界があることを前提に、投与間隔と回数を設計します。
Q. 運動療法は同時に必要ですか?
必要です。注射で炎症や疼痛が軽減しても、可動域や筋力は自動的には戻りません。三角筋・肩甲骨周囲筋の再教育を含む運動療法と組み合わせることが、機能回復には欠かせません。注射単独で完結する治療ではないという理解が土台になります。
Q. 高齢でも受けられますか?
年齢だけで一律に判断はできません。全身状態・活動性・関節破壊の程度・目標とする生活動作を総合して評価し、手術と保存療法の選択肢を並べたうえで個別に検討します。活動性感染やコントロール不良の全身疾患がある場合は慎重・非適応の対象となります。
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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
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