コラム

膝の内側が痛む鵞足炎を変形性膝関節症と取り違えないために──痛みの部位から読み解く鑑別と幹細胞培養上清液の関節周囲注射2026.07.07

階段の昇り降りや立ち上がりで膝の内側がズキッと痛む──こうした訴えは変形性膝関節症のサインと受け止められがちですが、実際には脛骨の内側で3本の腱が集まる「鵞足(がそく)」の部位に炎症が起きた鵞足炎が背景にあるケースも珍しくありません。この腱付着部の障害は関節腔内の軟骨変性が主体の変形性膝関節症とは治療の狙いどころが異なり、鑑別を誤ると注射も運動療法も的を外してしまいます。本稿ではAVAN TOKYO 銀座 再生医療の森脇進医師の視点から、鵞足炎の見極めと、保存療法を土台にした幹細胞培養上清液の関節周囲注射という保存的選択肢を医学的に整理します。

この記事の要点

・鵞足炎は脛骨内側の腱付着部・滑液包で起こる炎症・変性で、関節内の軟骨変性が主体の変形性膝関節症とは病態が異なる。

・痛みが膝関節の真横(関節裂隙)ではなく脛骨の内側やや下に限局し、押すと鋭い局所圧痛が再現される所見が診断のうえで重要なサインとなる。

・治療の土台は活動調整・大腿四頭筋やハムストリングス・内転筋群のストレッチ・体重管理などの保存療法で、そのうえで幹細胞培養上清液の関節周囲注射が保存的選択肢となりうる。

・幹細胞培養上清液は腱付着部を取り巻く炎症環境に働きかけることが期待されるが、効果には個人差があり、進行した変形や併存病変がある場合には適応と限界を医師と共有する必要がある。

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鵞足炎とは何か──脛骨内側で3本の腱が集まる場所の障害

鵞足とは、脛骨の内側やや下方に、縫工筋・薄筋・半腱様筋という3本の腱が扇状に付着する部位を指します。付着面の形状がガチョウの水かきに似ていることからこの名がつきました。鵞足の下には鵞足包という滑液包があり、腱と骨の摩擦を和らげるクッションとして働いています。

この部位に、ランニングや階段昇降、下肢アライメントの崩れ(O脚傾向)、変形性膝関節症に伴う内側荷重の増加、体重増加、扁平足などによって反復的な機械的ストレスがかかり、腱付着部と滑液包で炎症・変性が生じた状態が鵞足炎です。動き始めや階段の下りで内側が痛む、患部を押すと圧痛がある、といった訴えが典型で、必ずしも関節腔内の異常を反映しているわけではありません。関節疾患の情報については日本整形外科学会も参照ください。

変形性膝関節症との見分け方──痛みの部位と誘発動作で切り分ける

変形性膝関節症では、内側関節裂隙(膝の真横)や膝の裏、正座・しゃがみ動作の終末域で痛みが出やすく、X線で関節裂隙の狭小化・骨棘形成・軟骨下骨の硬化像が確認されます。一方、鵞足炎では、痛みの中心が関節裂隙よりも2〜4cmほど下方、脛骨の内側前面に限局していることが多く、押圧すると鋭い局所圧痛が再現されるのが特徴です。

診察では、抵抗下の膝屈曲・下腿内旋で鵞足部の腱に負荷をかけて痛みを誘発する所見や、大腿内転筋群の柔軟性低下、O脚傾向、扁平足の有無などを組み合わせて評価します。両者はしばしば併存し、変形性膝関節症の患者が同時に腱付着部の痛みを抱えているケースも珍しくありません。「膝の内側が痛い」という主訴だけで一括りにせず、痛みの正確な部位・誘発動作・画像所見を組み合わせて診断の順序を丁寧に踏むことが、治療戦略を誤らない第一歩となります。

保存療法と幹細胞培養上清液の関節周囲注射の位置づけ

治療は、まず保存療法が土台です。反復する負荷の見直し(走行距離の一時的な短縮・階段動作の頻度調整)、大腿四頭筋・ハムストリングス・内転筋群のストレッチ、鵞足部への過負荷を避ける歩行フォームの修正、体重管理を組み合わせます。急性期にはアイシング・鎮痛消炎薬・活動量調整で炎症を鎮めることが優先されます。

これらの保存療法で反応が乏しい、あるいは慢性化して腱付着部の変性が背景にあると考えられる場合に、幹細胞培養上清液の関節周囲注射(鵞足部への局所投与)が保存的選択肢の一つとして検討されます。幹細胞培養上清液には抗炎症サイトカインの調整に関わる分子や、組織修復環境をサポートする成長因子・エクソソーム由来分子が含まれ、腱付着部・滑液包の慢性炎症環境に働きかけることが期待されます。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらで治療の考え方をご確認いただけます。

幹細胞培養上清液に期待できること・期待しすぎてはいけないこと

鵞足炎に対する幹細胞培養上清液の関節周囲注射は、あくまで「腱付着部・滑液包を取り巻く炎症環境を整える」ことを狙う保存的アプローチです。ステロイド局所注射のように短時間で鋭く炎症を抑える性質とは異なり、腱の変性に対しては修復環境をサポートしていく比較的緩やかな作用が想定されるため、「注射のみで数日以内に痛みがゼロになる」ことを期待するのではなく、活動調整・ストレッチ・アライメントの見直しと並行させることが重要です。

一方で、腱の全層断裂・進行した変形性膝関節症・活動性の関節内感染・コントロール不良の全身疾患などがある場合には、慎重投与や適応外となる判断もあります。自己判断で「腱の炎症」と決めつけていても、内側半月板損傷・膝内側側副靱帯損傷・伏在神経の絞扼など別の病態が併存しているケースも少なくなく、単に注射を重ねるだけでは根本的な負荷因子は減りません。診断の精度と、治療で「何を狙い、何は狙わないのか」を医師と共有することが、この治療を安全かつ有意義に活用するための前提となります。

よくある質問

Q. 鵞足炎は自然に治りますか。

軽度で急性期であれば、活動調整・アイシング・ストレッチ・鎮痛消炎薬などの保存療法によって数週間から数か月で改善するケースもあります。ただし負荷因子が続いたり慢性化した場合には治りにくく、治療の順序と負荷の見直しが必要です。

Q. 変形性膝関節症と併存することはありますか。

はい、しばしば併存します。中高年ではO脚傾向・下肢アライメントの崩れが両者に共通する背景因子になり得るため、痛みの部位を丁寧に切り分けたうえで、それぞれの病態に応じた治療を組み合わせる必要があります。

Q. 幹細胞培養上清液の関節周囲注射は何回くらい必要ですか。

病態の重症度・慢性化の程度・保存療法との組み合わせによって、回数と間隔は個別に設計します。効果判定は痛み・圧痛の範囲・可動域・日常動作の改善を数週間から数か月単位で見比べながら行い、反応が乏しい場合は継続・変更・整形外科的再評価を含めて見直します。

Q. ステロイド注射と幹細胞培養上清液の関節周囲注射は何が違いますか。

ステロイド注射は強い抗炎症作用で短期的に痛みを抑える一方、繰り返しには腱・軟部組織への影響が懸念されます。幹細胞培養上清液は炎症環境の調整と組織修復環境のサポートを狙う生物学的アプローチで、作用機序と狙いどころが異なります。

Q. 走ることは続けてよいですか。

急性期は原則として負荷の高い走行は控え、痛みが落ち着いてから走行距離・路面・シューズ・フォームを見直しつつ段階的に再開することが望まれます。痛みを我慢して走り続けると慢性化のリスクが高まります。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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