5αリダクターゼI型とII型はどう違うのか──頭頂部と前頭部で薄毛の進み方が変わる酵素のメカニズムと幹細胞培養上清液という選択2026.06.26
「内服薬を飲み始めて1年経つのに、頭頂部はマシになったのに生え際だけ改善しない」「同じAGAと診断されたのに、人によって薄くなる場所が違うのはなぜなのか」──こうした疑問の鍵を握っているのが、5αリダクターゼという一つの酵素です。AGA(男性型脱毛症)の本質は男性ホルモンの代謝経路と毛包の感受性にあり、その中心で働くのがこの酵素なのです。本記事では、I型とII型という2つのアイソザイムがどう違い、なぜ頭頂部と前頭部で薄毛の進み方が変わるのかを、AVAN TOKYO銀座院の森脇進医師が医学的に整理します。
5αリダクターゼとは何か──AGAの中心にある酵素
5αリダクターゼは、体内でテストステロンを「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換する酵素です。DHTはテストステロンの約2.5〜10倍の強い男性ホルモン作用を持ち、毛包の縮小・毛周期の短縮・軟毛化を引き起こす、AGAの最大の原因物質とされています。
I型とII型は別物として発見された
この酵素には大きく分けて「I型」と「II型」と呼ばれる2つのアイソザイム(同じ反応を触媒する別の酵素)が存在します。1990年代の遺伝子クローニング研究によって、両者は染色体上の異なる位置にコードされており、構造も性質も別物であることが明らかになりました。同じ「DHTを作る」働きをしていても、体内のどこで主に機能しているかが大きく異なります。
体内での分布の違い
II型は前立腺・精嚢・前頭部や頭頂部の毛包・髭・体毛の毛包に多く存在します。一方I型は、皮脂腺・肝臓・側頭部や後頭部の毛包に主に分布しています。この「分布の違い」こそが、AGAの臨床像──つまり「どこから薄くなるか」を決定づける本質的な要素なのです。

なぜ頭頂部と前頭部で薄毛の進み方が変わるのか
AGAが前頭部(M字部)と頭頂部から進行し、側頭部・後頭部が温存されるのは偶然ではありません。これは毛包に存在する酵素の種類と量、そして毛包細胞のホルモン感受性の差によって科学的に説明できる現象です。
前頭部・頭頂部はII型が優位
前頭部から頭頂部にかけての毛包はII型5αリダクターゼの活性が高く、テストステロンが効率よくDHTに変換されます。さらにこの部位の毛包細胞はアンドロゲン受容体の感受性も高いため、生成されたDHTが直接毛母細胞に作用し、毛周期の成長期を短縮させていきます。「生え際から進む」「つむじから薄くなる」というおなじみのAGAパターンは、この酵素分布の必然的な帰結なのです。
側頭部・後頭部はI型が中心で「最後まで残る」
一方、側頭部や後頭部の毛包はI型優位で、II型の活性は低く、アンドロゲン受容体の感受性も低いことが知られています。これが「自毛植毛では後頭部の毛を採取する」というドナー優位性の生物学的根拠です。後頭部の毛は、移植後も男性ホルモンの影響を受けにくいまま生き続ける性質を持っています。
治療薬と5αリダクターゼ──フィナステリドとデュタステリドの差
酵素アイソザイムの分布の理解は、AGA治療薬の選択にもそのまま直結します。
フィナステリド:II型のみを選択的に阻害
フィナステリド(プロペシア®)は主にII型を選択的に阻害する薬剤です。頭頂部・前頭部はII型優位なので、フィナステリドはAGAの中心領域に効果を発揮します。ただしI型はほぼ抑制しないため、皮脂腺由来のDHTや、I型優位な部位への作用は十分には抑えきれません。
デュタステリド:I型とII型の両方を阻害
デュタステリド(ザガーロ®)はI型・II型の両方を阻害する「デュアル阻害薬」です。血中DHTの抑制率はフィナステリドより高く、I型由来のDHTもブロックできるため、フィナステリドで効果が不十分な症例に選択されることがあります。一方で性機能・気分への副作用懸念や、妊娠可能女性への接触禁忌は両薬に共通する課題です。AGA治療の指針については日本皮膚科学会のガイドラインも参照してください。
5αリダクターゼ阻害薬の「限界」と幹細胞培養上清液という選択
ここで臨床的に重要なのは、酵素阻害薬はあくまで「DHTという原因を止める」治療であり、すでに縮小・休止してしまった毛包を「再び起こす」働きはほとんど持たないという事実です。内服を1〜2年続けても改善が乏しい症例、副作用で内服を継続できない症例、女性のFAGA症例──こうしたケースでは、毛包そのものに働きかける別のアプローチが必要になります。
幹細胞培養上清液は、ヒト脂肪由来幹細胞を培養した上澄み液に含まれるVEGF・IGF-1・HGF・KGFといった成長因子とエクソソームのカクテルで、毛包幹細胞のニッチ環境に直接働きかけ、休止期に入った毛包の再活性化を促します。5αリダクターゼ阻害薬が「DHTを下げる引き算の治療」だとすれば、幹細胞培養上清液は「毛包の再生力を補う足し算の治療」です。両者は競合せず、むしろ併用することで内服単独では届かなかった領域に手が届きます。
AVAN TOKYOでは、Morpheus8によるマイクロニードルRFで頭皮に微細な経路をつくった上で、酵素阻害薬では届かなかった毛包微小環境に上清液を直接届ける「ドラッグデリバリー」プロトコルを採用しています。
まとめ──AGAは「説明可能な現象」である
AGAは「ただの遺伝」ではなく、5αリダクターゼという酵素の分布と活性に支配された、科学的に説明可能な現象です。I型とII型の分布の違いを理解することで、自分の薄毛の進み方や治療薬の効き方が腑に落ち、「次の一手」を医学的に選べるようになります。
阻害薬で十分な反応が得られないとき、副作用で内服を続けられないとき、あるいは女性のFAGAで内服が選びにくいとき──幹細胞培養上清液という補完的な選択肢があります。毛髪再生医療の関連コラム一覧はこちらから、他の治療テーマもご覧いただけます。
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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
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