コラム

PRPと幹細胞培養上清液は膝でどう使い分けるのか──自己血由来と細胞由来を「膝関節注射」の観点から森脇医師が比較する2026.07.09

「膝の痛みでPRPを勧められたが、幹細胞培養上清液との違いが分からない」——変形性膝関節症の膝関節注射を検討する患者さんから、こうした声を最近特によく伺うようになりました。どちらも「再生医療の関節注射」と一括りにされがちですが、原料の由来・作用の主体・製剤としての性格は大きく異なります。膝関節注射としてどちらを選ぶかは、進行度・年齢・採血への負担・費用・生活の状況までを含めて総合的に判断すべきものです。本稿では、PRP(多血小板血漿)と幹細胞培養上清液の違いを、機序・エビデンス・臨床の使い分けという三つの視点から森脇医師が整理します。

この記事の要点

・膝関節注射としてのPRPは「自分の血液」から作る自己由来製剤で、血小板由来の成長因子が主役です。

・幹細胞培養上清液は「培養した幹細胞が分泌したメディウム」で、複数種のサイトカイン・成長因子・エクソソームを含む多層的なシグナルが特徴です。

・PRPは採血が必須で当日拘束時間が長く、幹細胞培養上清液は既製剤のため採血不要という手技上の違いがあります。

・どちらも「軟骨を直接再生させる魔法の注射」ではなく、関節内の炎症環境と修復応答に働きかけるアプローチとして位置づけるのが誠実です。

・KL分類の進行度・膝の水の量・過去の治療歴によって、どちらを検討するかの優先順位は変わります。

膝関節注射としてのPRPと幹細胞培養上清液は「由来」も「作用」も異なる

PRPは自分の血液から作る自己由来製剤

PRPは Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)の略で、患者さん本人から採血した血液を遠心分離し、血小板を高濃度に濃縮した成分を膝関節腔へ戻す治療です。血小板の中には、PDGF(血小板由来成長因子)・TGF-β・VEGF・EGFといった複数の成長因子が α顆粒と呼ばれる袋の中に貯えられており、活性化により関節内へ放出されます。自己由来のため免疫学的な拒絶反応のリスクが低いことが特徴です。

幹細胞培養上清液は細胞が分泌したメディウム

一方、幹細胞培養上清液は、間葉系幹細胞(脂肪由来・臍帯由来・歯髄由来など)を体外で培養する過程で、細胞そのものではなく細胞が培養液中に分泌した成長因子・サイトカイン・エクソソーム・miRNAなどを回収した液体成分です。細胞は含まれていません。あくまで「細胞が働いた痕跡としての分泌物」を膝関節注射として用いる点で、細胞移植とは根本的に別の考え方に立つ治療です。

knee joint injection PRP stem cell conditioned media comparison

膝関節注射としての作用機序と成長因子プロファイルはどう違うのか

PRPが担うのは血小板由来の成長因子

PRPで注入される成分は、あくまで血小板が α顆粒に貯えていた成長因子群です。組成は本人の血液コンディションに大きく依存し、その日の血算・炎症状態・栄養状態によってロットが変動します。血小板由来のシグナルが軟骨基質代謝や滑膜の炎症サイクルにどう作用するかは活発に研究されていますが、変形性膝関節症の進行を止めるという意味での長期成績には、まだ限界と個人差が残るのが実情です。

幹細胞培養上清液が担うのは多層的な細胞間シグナル

膝関節注射として用いる幹細胞培養上清液の特徴は、血小板由来の成長因子に加え、IGF-1・HGF・FGF・TGF-β・SDF-1などの多様なサイトカインや、細胞外小胞であるエクソソームが含まれる点にあります。エクソソームの中にはmiRNAなど遺伝子調節分子も含まれ、滑膜炎の抑制・軟骨細胞の代謝環境改善に関与する可能性が基礎研究で報告されています。ただし「軟骨そのものが元通りに再生する」と断定できる臨床エビデンスは現時点で確立していません。あくまで関節内の炎症環境と修復応答へ働きかける生物学的アプローチとして、膝関節注射の選択肢に位置づけています。

膝関節注射としての採取負担・ロット標準化・費用の違い

PRPは治療当日に必ず採血が必要です。採血量はプロトコルにより数十mL、遠心分離を経て投与するまで通常1時間前後の院内拘束が生じます。抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の方や、貧血が強い方では採血自体が慎重投与となる場合もあります。一方、膝関節注射としての幹細胞培養上清液は、既製の凍結製剤を解凍して用いるため採血が不要で、当日の拘束時間は注射手技の分だけで済みます。ロットの標準化という観点では、PRPは「その日の患者さんの血液で作る個別バッチ」であるのに対し、幹細胞培養上清液は「同一ロットの製剤を複数患者へ用いる」性格を持ち、ロット証明書(CoA)による成分・無菌試験の確認が可能です。

変形性膝関節症のどの段階でどちらの膝関節注射を検討するか

膝関節注射の選び方は、KL分類の進行度・水腫(膝の水)の有無・過去のヒアルロン酸やステロイド注射の反応・年齢・活動性・仕事や介護など生活側の事情まで含めて総合判断します。関節疾患の一般的な情報については日本整形外科学会のサイトも参考にしてください。当院では、初診時にX線・必要に応じてMRI・可動域・歩行の評価を行い、まず保存療法(運動療法・装具・生活指導)の土台を整えたうえで、膝関節注射としてPRPと幹細胞培養上清液のどちらを提案するかを検討します。高度に関節が破壊されたKL grade IVや、活動性感染、コントロール不良の全身疾患をお持ちの方は、いずれの膝関節注射も慎重・非適応となる場合があります。膝関節注射で「一発逆転」を狙うのではなく、運動療法・装具・体重管理と組み合わせながら、痛みと機能を段階的に整えていく設計こそが再生医療の使いどころだと考えています。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. PRPと幹細胞培養上清液は同時に併用できますか?

併用そのものを禁忌とする明確なルールはありませんが、同日に膝関節腔へ複数の生物学的製剤を注入することは効果判定を難しくし、費用対効果の観点でも積極的にはお勧めしていません。時期をずらして評価する設計のほうが臨床的には合理的です。

Q. どちらの膝関節注射のほうが効果が高いですか?

一律の優劣は言い切れません。PRPは自己由来という安心感と、血小板由来成長因子のシンプルな作用が特徴です。幹細胞培養上清液は多様なサイトカイン・エクソソームを含む一方、ロットの品質確認とインフォームドコンセントが前提です。適応・進行度・生活背景で選ぶべきものです。

Q. 何回打てば効果が出ますか?

個人差が大きいのが実情です。一般的には数週から数か月かけて経過を評価し、疼痛スコア・可動域・日常動作の変化を客観的に見ながら回数を設計します。膝関節注射だけで「治す」のではなく、リハビリと組み合わせた総合的な治療計画が前提となります。

Q. ヒアルロン酸注射との違いは何ですか?

ヒアルロン酸は関節の潤滑と粘弾性を物理的に補うアプローチです。PRP・幹細胞培養上清液は、成長因子・サイトカインを介して関節内の炎症環境と修復応答に生物学的に働きかけるアプローチで、狙う層と目的が異なります。

Q. 副作用はどのようなものがありますか?

いずれの膝関節注射も注射手技に伴う内出血・一時的な腫れや痛み・ごくまれな感染などのリスクがあります。とくに膝の水(関節液貯留)が多い状態や、コントロール不良の糖尿病では慎重な適応判断が必要です。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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