大腿骨頭壊死症の早期段階に幹細胞培養上清液の股関節注射は選択肢になり得るか──ステロイド性・特発性の病態と、人工股関節置換術に至る前の適応と限界を森脇医師が整理する2026.07.22
「歩き始めの股関節が急にズキッと痛む」「あぐらをかくと内側から鈍痛が広がる」──こうした症状で受診された方に「大腿骨頭壊死症」と診断されるケースが、ステロイド治療歴のある方や30〜50代を中心に少なくありません。骨頭を養う血流が途絶えた結果、骨組織が壊死してしまうこの疾患は、進行すると骨頭が陥没し人工股関節置換術に至ることで知られています。近年、初期段階の患者さんから「幹細胞培養上清液の股関節注射で進行を抑えられないか」というご相談が増えました。本コラムでは、病態理解を踏まえ、この治療で狙えるもの・狙えないもの、そして手術療法との住み分けを森脇医師が誠実に整理します。
この記事の要点
・大腿骨頭壊死症は骨頭の血流障害により骨組織が壊死する疾患で、ステロイド性・アルコール性・特発性・外傷性など背景は多様です。
・進行度は「陥没前(Stage 1〜2)」と「陥没後(Stage 3〜4)」で治療方針が大きく変わり、陥没後は保存療法で骨頭形状を復元することは困難です。
・幹細胞培養上清液の股関節注射は、初期の炎症コントロールや修復環境づくりを目的に検討され得ますが、骨壊死そのものを再生させる治療ではありません。
・重度陥没や関節破壊が進行した症例では、人工股関節置換術(THA)などの手術療法が現実的な選択となります。
・治療選択は必ずMRIによる病期評価と整形外科的診断を踏まえ、背景疾患・年齢・活動性を考慮して行うべきです。
大腿骨頭壊死症とは──骨頭に血流が届かなくなる病態
本症は、大腿骨の先端にある球状の骨頭(大腿骨頭)へ酸素と栄養を運ぶ血流が何らかの理由で途絶え、骨細胞が死滅して骨組織が壊死してしまう疾患です。厚生労働省の指定難病にも登録されており、日本では毎年新たに数千人規模で発症すると推計されています。
ステロイド性・アルコール性・特発性・外傷性という4つの背景
本症の背景として最も多いのは、膠原病・腎移植・血液疾患などで長期にわたり副腎皮質ステロイドを使用した「ステロイド性」です。次いで、長年の過量飲酒による「アルコール性」があり、この2つで背景の大半を占めます。原因が明らかでない「特発性」、および大腿骨頸部骨折や股関節脱臼などに続発する「外傷性」も存在します。共通するのは、骨頭内部の微小循環障害という機序です。骨内血管の脂肪塞栓・凝固能亢進・骨内圧上昇などが複合的に働くと、骨頭の一部で血流が絶たれ、その領域の骨細胞が壊死に陥ります。

Stage分類と治療の分かれ目──陥没前と陥没後で選択肢は大きく変わる
本症の進行度は、日本整形外科学会・厚生労働省研究班によりStage 1〜4に分類されます。Stage 1は単純X線で所見が明確でなくMRIでのみ発見される段階、Stage 2は骨頭に硬化像などが見えるが球形を保っている段階、Stage 3は骨頭に陥没が生じた段階、Stage 4は関節裂隙の狭小化や二次性変形性股関節症へ進行した段階です。
治療方針が最も大きく変わるのは、骨頭が陥没しているかどうかの境目です。陥没前の症例では、大腿骨頭回転骨切り術など壊死領域を荷重面から避ける手術や、骨頭温存の保存療法が選択され得ます。一方、陥没後の症例では骨頭の球面性が失われているため、機械的な負荷がかかるたびに関節破壊が進行し、多くは人工股関節置換術(THA)へと進んでいきます。関節疾患の全般的な情報については日本整形外科学会も参照してください。
幹細胞培養上清液の股関節注射で狙えるもの・狙えないもの
幹細胞培養上清液は、脂肪由来間葉系幹細胞などを培養した際に培養液中へ分泌される成長因子・サイトカイン・エクソソームを含む上澄み液です。TGF-β・IGF-1・VEGF・HGFといった因子群には、局所の炎症を抑え、組織修復を後押しする可能性が基礎研究レベルで報告されています。治療の具体的な流れについては幹細胞培養上清液の関節注射のご案内ページもあわせてご確認ください。
初期段階の「関節内炎症」への働きかけ
本疾患では、壊死骨から放出される炎症性メディエーターが関節液へ波及し、二次性の滑膜炎を引き起こすことがあります。Stage 1〜2の初期例で股関節痛が出始めた段階に、幹細胞培養上清液の股関節注射で滑膜炎症サイクルへ働きかける戦略は、炎症コントロールという観点で理論的な位置づけがあります。ただしこれは「骨頭壊死そのものを治す」治療ではなく、あくまで周辺の炎症環境を整えることで疼痛と関節機能を可能な範囲で保つ補助的アプローチだと理解する必要があります。
陥没後は「機械的損傷」──注射で骨頭形状は戻らない
Stage 3以降で骨頭が陥没してしまうと、それは血流障害由来の生物学的問題ではなく、球面性喪失という機械的・構造的な問題へと変質します。幹細胞培養上清液の関節注射は組織の修復環境に働きかけるものであって、失われた骨頭の形状を復元する治療ではありません。「注射で手術を回避したい」というご相談を多くいただきますが、陥没後の症例では、正直に手術療法をご案内すべきステージだと考えています。
手術療法との住み分け──どの段階で何を検討するか
手術療法が検討されるのは、壊死範囲が広く陥没リスクが高い症例、あるいはすでに陥没・関節破壊が進んだ症例です。若年で骨温存を目指す場合は大腿骨頭回転骨切り術・弯曲内反骨切り術などの骨切り術が、関節破壊が進んだ場合は人工股関節置換術(THA)が選択されます。
幹細胞培養上清液の股関節注射は、これらの手術療法に置き換わる治療ではなく、「手術に至るまでの経過観察期間に疼痛・炎症をコントロールする」あるいは「Stage 1〜2で症状が軽度な段階の補助的選択肢」として位置づけるのが誠実な考え方です。MRIによる定期的な病期評価と整形外科医との連携なしに独断で継続することは避けてください。効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が保証されるものではないことも併せてご理解ください。
よくある質問
Q. 大腿骨頭壊死症と診断されました。幹細胞培養上清液の股関節注射だけで治せますか?
残念ながら、この治療だけで根治させることはできません。関節内の炎症環境や周囲組織の修復環境に働きかけるものであり、壊死した骨頭そのものを再生させる医学的根拠は現時点で確立していません。Stage・年齢・活動性に応じて、整形外科的な保存療法や手術療法と組み合わせて検討することが基本です。
Q. ステロイドを長く使っていて心配です。予防目的に注射を受ける意味はありますか?
ステロイド性の大腿骨頭壊死症のリスクがあることは事実ですが、症状のない段階で予防目的に幹細胞培養上清液を関節注射する有効性は科学的に確立していません。ステロイド使用中の方は、定期的な股関節MRIによる早期発見と、原疾患を診ている主治医との連携を最優先してください。
Q. 骨頭が陥没してしまったら、もう注射という選択肢はないのですか?
陥没後は骨頭の球面性が失われているため、注射で形状を戻すことはできません。ただし、人工股関節置換術を待つ間の疼痛・炎症コントロール目的、または術後リハビリ期の炎症環境改善目的で、慎重に検討される場面はあり得ます。手術のタイミングと注射の位置づけは整形外科医と十分に相談してください。
Q. 施術後の生活はどうすれば良いですか?
施術当日は長時間の歩行・立位・激しい運動を避け、股関節への荷重負担を減らしてください。翌日以降は日常生活は可能ですが、荷重ジャンプや階段の駆け上がりは1週間程度控えることを推奨します。飲酒はアルコール性壊死のリスク因子でもあるため、この機会に量を見直すこともおすすめします。
Q. どんな人には向かない治療ですか?
活動性の感染症がある方、コントロール不良の全身疾患を持つ方、進行例で人工股関節置換術の適応が明確な方には向きません。また、片側の壊死が進行して跛行が明らかな方は、注射で先延ばしにするより手術を検討したほうが結果的にADL(日常生活動作)が保たれることも多く、正直にご案内しています。
──────────────
関連記事
- ケロイド体質スカルプ治療は受けられるのか──マイクロニードルRFと幹細胞培養上清液の適応を瘢痕体質の軸から森脇医師が整理する
- 膝の関節液は透明でサラサラか、濁ってドロドロか──関節液性状から幹細胞培養上清液の関節注射の適応と赤旗徴候を読み解く視点を森脇医師が整理する
- 「もう手術しかない」と言われた膝や股関節に、まだ試せる保存療法は残っているのか──人工関節置換術の適応と幹細胞培養上清液の関節注射で粘る境界線を森脇医師が整理する
【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
──────────────
📍AVAN TOKYO 銀座 再生医療
AVAN TOKYO Ginza Regenerative Medicine
English / 中文 / Tiếng Việt 対応可能
ご相談は DM / LINE / Website / Phone より承っております。