コラム

「もう手術しかない」と言われた膝や股関節に、まだ試せる保存療法は残っているのか──人工関節置換術の適応と幹細胞培養上清液の関節注射で粘る境界線を森脇医師が整理する2026.07.21

「もう手術しかないですね」と診察室で言われた瞬間、多くの患者さんが息をのみます。膝の変形性関節症や股関節の進行した関節症で、人工関節置換術を提案される場面は決して珍しくありません。しかし本当に「手術しか」残されていないのでしょうか。近年注目される幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢も含め、保存的に粘る余地がある段階と、手術がむしろ妥当な段階の境界線は、整形外科の現場で日常的に議論されているテーマです。人工関節置換術の適応は画一的な線引きではなく、画像所見・症状・生活背景を組み合わせた総合判断で決まります。本稿ではその境界を、整形外科的な適応基準と再生医療の位置づけの両面から森脇医師が誠実に整理します。

この記事の要点

・「手術しかない」と言われても、実際は関節の状態と生活の困り具合を組み合わせて判断される

・人工関節置換術の適応は、画像上のグレードだけでなく、疼痛・機能障害・保存療法の効果不良が揃うことが基本

・KL分類グレードIII〜IVでも症状が軽ければ、手術を急ぐ絶対的な根拠にはならない

・幹細胞培養上清液の関節注射は末期関節破壊の「置換の代わり」にはならないが、進行途中の炎症コントロールの選択肢になりうる

・手術を選ぶかどうかは、患者さん自身の生活優先度と主治医との対話で決めるべき

「もう手術しかない」と言われる患者に何が起きているのか

「もう手術しかない」という言葉は、多くの場合、担当医が「これ以上、標準的な保存療法で改善する余地は乏しい」と判断したときに用いられます。しかしそこには複数の含意が混在しています。第一に、画像上の関節破壊が進んでいるという構造的な事実。第二に、ヒアルロン酸注射やステロイド注射、NSAIDs、運動療法などの標準的な保存療法で疼痛や機能障害が改善しないという治療反応の事実。第三に、歩行距離の低下や階段昇降の困難など、日常生活の障害がすでに高いレベルに達しているという生活の事実です。これらが揃って初めて、人工関節置換術という選択肢が現実味を帯びます。逆に言えば、そのうちの一つや二つしか揃っていない段階では、まだ他の道を検討する余地は残されています。

人工関節置換術の適応はどこにあるのか

整形外科領域で人工関節置換術の適応と判断される代表的な条件は、次のように整理できます。KL分類グレードIII〜IV相当の関節破壊、6か月以上続く保存療法抵抗性の疼痛、歩行距離や日常動作の明らかな制限、そして年齢や全身状態が手術に耐えうること。この四要素が揃ったとき、人工関節置換術は最も合理的な選択肢の一つとなります。逆に、画像所見が末期でも痛みが軽く歩行に大きく困っていない患者さんに手術を急ぐ医学的根拠は乏しく、疼痛が強くても画像上まだ早期であれば、まず保存療法の見直しが優先されます。人工関節置換術の適応は「画像で末期=手術」という単純な図式ではありません。この点を理解しておくことは、手術を勧められた患者さんが自分の選択肢を冷静に見つめ直す出発点になります。関節疾患の一般情報については日本整形外科学会のサイトもあわせてご参照ください。

total joint replacement indication conservative therapy knee hip

保存的に粘れる境界線と幹細胞培養上清液という選択肢

では、どこまでなら保存療法で粘れるのか。目安として、KL分類グレードII〜III前半で、標準的な保存療法をまだ十分に試していない段階、あるいは疼痛はあっても歩行や階段昇降がなんとかできる段階では、保存療法の余地は十分に残っています。ヒアルロン酸注射・NSAIDs・運動療法・体重管理・装具療法といった標準治療に加えて、近年は幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢が加わりました。これは間葉系幹細胞を培養した培地から得られる分泌成分の集合体で、TGF-β・IGF-1・FGFといった成長因子や抗炎症サイトカインを含みます。作用の中心は関節内の炎症環境の是正であり、末期の関節破壊で失われた骨や軟骨そのものを再生させる魔法の注射ではありません。したがって適応となるのは、進行途中で関節内の炎症サイクルを整えたい段階です。詳細は幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもご参照ください。

手術を選ぶ判断と、粘る判断の違い

最終的に手術を選ぶか粘るかは、医学的な適応と患者さん自身の生活優先度の掛け合わせで決まります。仕事で階段昇降が頻繁にあり、痛みで職務が続けられない方は、比較的早めに人工関節置換術に踏み切ることで生活の質を回復できるケースが多いです。一方で、痛みはあっても日常生活がなんとか回っている方、あるいは仕事や介護の都合で長期のダウンタイムを取りにくい方は、幹細胞培養上清液の関節注射を含む保存療法で数か月〜数年単位の時間を稼ぐ選択も理にかなっています。ただし過度な期待は禁物です。上清液の関節注射は個人差があり、末期の関節破壊を反転させる治療ではありません。手術を選ぶ判断も、粘る判断も、どちらが医学的に絶対に正しいというより、「その人にとって今、何を優先するか」で最適解が変わります。だからこそ、主治医との対話の中で自分の生活背景や優先度を丁寧に共有し、選択肢の輪郭を一緒に確認することが大切です。人工関節置換術の適応を過剰に恐れる必要も、逆に急ぎすぎる必要もありません。

よくある質問

Q. 「もう手術しかない」と言われたら、必ず手術を受けるべきですか?

必ずしもそうではありません。担当医の判断は尊重すべきですが、画像所見・症状・生活背景を組み合わせた総合的な適応かどうかは、セカンドオピニオンも含めて確認する価値があります。人工関節置換術の適応は複数の要素の掛け合わせで決まるため、一度立ち止まって選択肢を整理することは合理的です。

Q. 幹細胞培養上清液の関節注射で人工関節手術を回避できますか?

末期の関節破壊を反転させて手術を不要にする、と断定できる治療ではありません。ただし進行途中の関節では、炎症環境を整えることで疼痛の管理や日常動作の改善に寄与しうる選択肢と考えられています。効果には個人差が大きい点をご理解いただく必要があります。

Q. KL分類グレードIVでも保存療法で粘れますか?

症状が軽く生活に支障がないなら、あわてて手術する必要はありません。ただし典型的にはグレードIVは疼痛や機能障害が強く、保存療法の限界に近いことが多いため、医師との継続的な相談と経過観察が必要です。無理に粘りすぎることで手術のタイミングを逃す不利益もあり得ます。

Q. 手術を受けるかどうかの決め手は何ですか?

最も重要なのは日常生活への支障の程度です。仕事・家事・趣味に痛みで参加できない状態が続いているなら、手術が生活の質を大きく改善する可能性があります。逆に生活がなんとか回っているなら、保存療法で粘る選択肢も十分現実的です。何を優先したいかを主治医と共有してください。

Q. 幹細胞培養上清液の関節注射はどのくらいの頻度で受けますか?

関節部位や病態、反応によって設計は変わりますが、導入期に複数回、その後効果判定を行い、維持のために間隔を空けて追加投与を検討するケースが一般的です。詳細は診察の中で個別にご相談ください。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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