IGF-1とHGFは毛包で何をしているのか──成長期延長シグナルの基礎研究と、ヒトでの根拠の現在地2026.06.30
薄毛治療の文脈では「VEGFで血流」「FGFで増殖」といった成長因子の役割が語られることが多いのですが、IGF-1(インスリン様成長因子1)とHGF(肝細胞増殖因子)は、それより一歩深いところ──毛包の「成長期をいかに引き延ばすか」という時間軸のシグナルを担っています。幹細胞培養上清液による毛髪再生医療を理解するうえで、この2つの因子を避けて通ることはできません。本コラムでは、IGF-1とHGFが毛包の中で具体的に何をしているのかを基礎研究レベルから解説し、ヒトでの臨床根拠が現在どこまで来ているのかを医学的に整理します。
毛周期の主役は「成長期の長さ」──IGF-1とHGFが鍵を握る理由
毛髪はランダムに伸び続けているわけではなく、成長期(アナゲン)・退行期(カタゲン)・休止期(テロゲン)という毛周期を繰り返しています。健康な頭髪の成長期はおよそ2〜6年ですが、AGA(男性型脱毛症)やFAGAでは、この成長期が年単位ではなく月単位にまで短縮していくことが知られています。つまり「抜ける本数」よりも「成長期をどれだけ長く維持できるか」が、毛量を左右する本質的な変数なのです。
成長期延長シグナルとは何か
毛包の成長期は、毛乳頭細胞(dermal papilla cells, DPCs)が周囲の毛母細胞や毛包幹細胞に向けて出す分子シグナルによって維持されています。なかでもIGF-1とHGFは、毛乳頭細胞から分泌されたあと、毛包の上皮系細胞の受容体(IGF-1R、c-Met)に結合し、増殖と生存を支える経路(PI3K-AKT、MAPK)を活性化します。これらの経路はアポトーシス(細胞死)を抑え、毛母細胞の分裂を後押しすることで、成長期を引き延ばす方向に作用します。
AGAでは何が起きているのか
AGAでは、ジヒドロテストステロン(DHT)が毛乳頭細胞のアンドロゲン受容体に結合し、TGF-βなど成長期を打ち切るシグナルを増やす一方で、IGF-1やHGFといった成長期延長シグナルの分泌は相対的に低下していくことが、培養毛乳頭細胞を用いた基礎研究で繰り返し示されています。毛包は「縮む方向のアクセル」と「伸ばす方向のブレーキ」が同時に起きている状態にあり、ここに介入する余地として、まさに幹細胞培養上清液という再生医療の出番があるのです。

IGF-1とHGFの作用機序を分解する
2つの因子は似た方向に働きますが、毛包内で担う役割は微妙に異なります。
IGF-1──毛母細胞の生存と毛幹形成のドライバー
IGF-1は、毛乳頭細胞だけでなく外毛根鞘の細胞からも分泌され、毛母細胞のアポトーシスを抑制し、毛幹(実際に伸びる毛の本体)の形成を支える因子です。ヒト毛包の器官培養系では、IGF-1の添加により毛包の長さの伸長が観察され、IGF-1シグナルを遮断すると毛包は早期に退行期へ移行することが報告されています。全身的にも、低身長の患者でIGF-1が低下していると毛径が細い傾向があるなど、毛髪の「太さ」と相関する因子としても注目されています。
HGF──毛包と血管・神経のクロストークを支えるシグナル
HGFは、毛乳頭細胞や周囲の間葉系細胞から分泌され、上皮系の毛母細胞だけでなく、毛包周囲の血管内皮細胞や神経細胞にも作用します。c-Met受容体を介して血管新生、神経再生、上皮細胞の遊走を後押しすることで、毛包を「環境ごと」立て直すような働きをしているのが特徴です。マウス毛包の研究では、HGFの局所投与によって休止期にあった毛包が成長期へと移行する誘導効果が示されており、毛周期スイッチの上流に位置する因子と考えられています。
2つの因子は「足し算」ではなく「協調」する
基礎研究で重要なのは、IGF-1とHGFを単独で投与するよりも、両者を含む培養上清の形で投与した方が毛包の成長期延長効果が安定する傾向が見られる点です。これは、毛包という器官が単一の因子ではなく、多数のシグナルの「組み合わせ」によって維持されていることを示唆しています。幹細胞培養上清液が単一成長因子製剤と差別化される最大の理由のひとつがここにあります。
ヒトでの根拠は今どこまで来ているのか
ここまでは基礎研究の話ですが、臨床応用ではどこまで根拠が積み上がっているのでしょうか。
分離精製した因子の単独投与は壁が多い
リコンビナント(遺伝子組換え)IGF-1やHGFを単独で頭皮に塗布・注入する臨床試験は限定的で、規模も小さく、長期効果は明らかになっていません。理由のひとつは、これらのタンパク質が大きく、皮膚バリアを通過しにくいこと、もう一つは生体内で速やかに分解されてしまうことです。AGA治療の指針については日本皮膚科学会のガイドラインを参照していただくのが正確ですが、現時点で単独IGF-1製剤・HGF製剤がAGA治療として正式に位置付けられているわけではありません。
幹細胞培養上清液という届け方
そこで現実的な選択肢となっているのが、間葉系幹細胞の培養上清に自然に含まれるIGF-1・HGFを、エクソソームや他の成長因子と「セット」で頭皮に届ける方法です。AVAN TOKYO銀座院でも、Morpheus8によるマイクロチャネル形成と組み合わせたドラッグデリバリーで、幹細胞培養上清液を毛乳頭に近い深さまで届ける設計を採用しています。これは、IGF-1やHGFを単離して送り込むよりも、毛包が本来受け取っているシグナル環境を再現するアプローチに近いと考えています。
過剰な期待は禁物──「成長期延長」は万能ではない
一方で、IGF-1やHGFが豊富に含まれた幹細胞培養上清液であっても、毛包が完全に瘢痕化してしまった部位や、ドナー優位性を失ったほど進行した晩期AGAには、十分な反応が得られないこともあります。再生医療は「ゼロから毛包を作る治療」ではなく、「まだ機能を残している毛包の成長期を延ばし、ミニチュア化した毛包を太く戻していく治療」だと理解することが大切です。フィナステリドやデュタステリドといった抗アンドロゲン治療と幹細胞培養上清液を組み合わせる設計が現実的に有効なのは、「ブレーキを外す薬」と「アクセルを踏む再生医療」の役割分担が成り立つからです。詳しい治療設計や他の発毛トピックは、毛髪再生医療の関連コラム一覧はこちらから確認いただけます。
まとめ
IGF-1とHGFは、毛包の成長期を延ばし、毛母細胞の生存を支える基幹シグナルです。AGAではこれらが相対的に弱まり、抗アンドロゲン治療だけでは「成長を後押しする側」までは十分にカバーしきれません。幹細胞培養上清液は、IGF-1・HGFを含む複数の成長因子とエクソソームをセットで毛包に届けることで、成長期延長シグナルの再構築をめざす再生医療です。万能ではないからこそ、診断・進行度・併用治療の設計が大切になります。基礎研究の成果と臨床の実感の両方を踏まえて、ご自身の毛包に何が足りていないのかを一度整理してみることをおすすめします。
──────────────
【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
──────────────
📍AVAN TOKYO 銀座 毛髪再生医療
AVAN TOKYO Ginza Hair Regenerative Medicine
English / 中文 / Tiếng Việt 対応可能
ご相談は DM / LINE / Website / Phone より承っております。