コラム

階段や膝屈伸で内側前面がひっかかるように痛む『膝内側タナ障害(内側滑膜ヒダ障害)』を変形性膝関節症・半月板損傷と取り違えないために──若年女性やスポーツ愛好家に多い内側滑膜ヒダの慢性炎症と、幹細胞培養上清液の膝関節注射で狙える関節内滑膜環境の是正を森脇医師が整理する2026.07.29

「膝の内側前面が屈伸のたびにひっかかる」「階段の昇り降りで違和感がある」「MRIでは大きな異常が見つからないのに、膝内側がずっと痛む」──こうした症状で悩む方の中には、変形性膝関節症でも半月板損傷でもなく、膝内側タナ障害(内側滑膜ヒダ障害)が隠れているケースが少なくありません。タナとは膝関節腔にある胎生期の滑膜ヒダの名残で、通常は無症状ですが、繰り返しの屈伸や外傷を契機に炎症を起こし、大腿骨内側顆と擦れて慢性的な関節内炎症を招くことがあります。本稿では膝内側タナ障害の見分け方と、幹細胞培養上清液の膝関節注射で狙える関節内滑膜環境の是正について、森脇医師の視点から整理します。

この記事の要点

・膝内側タナ障害は、膝関節内側に残る胎生期の滑膜ヒダが慢性炎症を起こす病態で、思春期以降の若年層・スポーツ愛好家の膝内側痛の隠れた原因になり得ます

・変形性膝関節症・内側半月板損傷・鵞足炎などと症状が重なりやすく、丁寧な鑑別が治療設計の起点になります

・診断は病歴・触診(膝蓋骨内側縁での圧痛と屈伸時の弾発)とMRIでの滑膜肥厚評価が中心で、診断的関節鏡が最終確認となる場合もあります

・保存療法は活動調整・大腿四頭筋強化・NSAIDs内服が基本で、遷延する例には幹細胞培養上清液の膝関節注射で滑膜炎に働きかける補助的な選択肢もあります

・上清液注射は「タナそのものを消す」治療ではなく、周囲滑膜の炎症環境を整える位置づけであり、効果には個人差があります

膝内側タナ障害とは──胎生期の名残としての内側滑膜ヒダ

タナ(plica)とは、膝関節腔内にある滑膜ヒダを指します。胎生期には膝関節が3つの区画に分かれており、その間仕切り(隔壁)の名残としてヒダが遺残します。膝には内側・外側・膝蓋上・膝蓋下の4種類のヒダが存在し、日本人では特に内側滑膜ヒダ(medial plica)の遺残率が高いと報告されています。

通常、内側滑膜ヒダは薄く柔軟で、屈伸に伴ってスムーズに動くため症状を出しません。しかし繰り返しの屈伸負荷(ランニング・自転車・階段昇降)、打撲などの外傷、あるいは変形性膝関節症の初期変化に伴う滑膜炎をきっかけに、ヒダ自体が肥厚・線維化して硬くなり、大腿骨内側顆や膝蓋骨内側縁と摩擦を起こすようになります。この摩擦が慢性炎症を招き、痛み・ひっかかり感・軋轢音として現れるのが膝内側タナ障害です。

タナが症状を出す典型的パターン

・膝内側前面(膝蓋骨のやや内側下方)に持続する鈍痛

・膝屈伸に伴う「コリッ」「パチッ」という弾発感・軋轢音

・階段昇降・長時間の膝屈曲位(正座・自転車・車の運転)で悪化

・膝を伸ばした瞬間に「ひっかかる」ような感覚

・軽度の関節水腫が繰り返す

10代後半〜30代の女性、スポーツを継続している若年男性に多く、明確な外傷を伴わない緩徐発症のパターンも珍しくありません。

medial plica syndrome knee joint injection

変形性膝関節症・半月板損傷との鑑別──膝内側タナ障害を見逃さない診察の順序

膝内側の痛みという主訴は非常に多く、変形性膝関節症・内側半月板損傷・鵞足炎・膝蓋大腿関節症・滑液包炎など多くの病態と共通します。膝内側タナ障害を的確に拾い上げるためには、症状の質と診察所見の組み合わせが重要です。

診察でどう見分けるか

膝内側タナ障害では、膝蓋骨内側縁のやや近位(関節裂隙より1〜2cm上方)に限局した圧痛と、屈伸時にヒダが大腿骨内側顆を越える瞬間の弾発が触知されることが特徴です。半月板損傷ではマクマレーテスト陽性・関節裂隙圧痛が中心で、鵞足炎は関節裂隙より遠位内側の膝下部に圧痛が集中します。変形性膝関節症では立位でのO脚変形と関節裂隙全体の圧痛・可動域制限が前面に出ます。

画像でどう見分けるか

単純X線では膝内側タナ障害の直接所見は得られませんが、変形性膝関節症の除外に有用です。MRIではT2強調脂肪抑制像で肥厚した滑膜ヒダが線状の低信号として描出され、周囲滑膜の高信号(滑膜炎)を伴うことがあります。ただしMRIの感度は必ずしも高くなく、症状が典型的でMRIで明らかな他病態がないときには、診断的関節鏡が最終確認となる場合もあります。

膝内側タナ障害への保存療法と幹細胞培養上清液の膝関節注射の位置づけ

膝内側タナ障害は、まず保存療法から入るのが原則です。活動調整(悪化させる動作の一時的な回避)、大腿四頭筋・内側広筋の強化、ハムストリングスと大腿筋膜張筋の柔軟性改善、NSAIDs内服・外用がベースラインとなります。多くの症例はこの範囲で軽快しますが、数か月以上遷延する慢性例では次の一手が必要になります。

幹細胞培養上清液の膝関節注射で狙える範囲と限界

幹細胞培養上清液には各種成長因子・抗炎症サイトカインが含まれており、関節腔内に投与することで滑膜炎の慢性サイクルに働きかけ、痛みのベースラインを下げる補助的アプローチとして位置づけられます。膝内側タナ障害では、ヒダそのものの物理的形状を変えることはできませんが、ヒダ周囲の滑膜炎症環境を整えることで、疼痛や関節水腫の反復を抑えられる可能性があります。

ただし、この治療は保存療法の代替ではなく、あくまで並行して行う補助的位置づけです。関節鏡下タナ切除術(内側滑膜ヒダ切除術)の適応となる高度な線維化や大腿骨内側顆の軟骨損傷を伴う例では、上清液注射で押し切ることは避け、整形外科的評価を優先する誠実な姿勢が必要です。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもあわせてご覧ください。関節疾患の一般的な情報については日本整形外科学会も参照してください。

よくある質問

Q. 膝内側タナ障害は放置しても大丈夫でしょうか?

軽度の症状であれば活動調整と大腿四頭筋強化で自然に軽快することも多くあります。ただし、繰り返す関節水腫やひっかかり感が続く場合、大腿骨内側顆の軟骨に摩耗性の損傷が生じるリスクがあり、慢性化する前に整形外科での評価を受けることをおすすめします。

Q. MRIで「タナは見つからない」と言われましたが、症状は続いています。診断は間違いですか?

MRIによる膝内側タナ障害の描出感度は高くなく、症状が典型的でも画像で確認できないケースはあります。診察所見と病歴を総合して判断することが多く、必要に応じて診断的関節鏡や治療的関節注射で反応を見ながら評価を進めます。

Q. 幹細胞培養上清液の膝関節注射で膝内側タナ障害は治りますか?

幹細胞培養上清液の膝関節注射は、ヒダそのものを消す治療ではなく、周囲滑膜の炎症環境に働きかける補助的アプローチです。疼痛や関節水腫のベースラインが下がる可能性はありますが、効果には個人差があり、保存療法や運動療法と並行して用いるのが基本です。

Q. スポーツはいつから再開してよいですか?

急性の炎症症状(腫脹・熱感・強い痛み)がある期間は、負荷のかかる動作を一時的に控えることが望ましいです。症状の落ち着き方には個人差があるため、段階的な負荷復帰プログラムを整形外科医・理学療法士と相談しながら進めるのが安全です。

Q. 手術(関節鏡下タナ切除術)が必要になるのはどんな場合ですか?

数か月〜半年以上の保存療法で症状が改善せず、日常生活やスポーツに支障が続く場合、あるいはヒダの高度な線維化が大腿骨軟骨に損傷を及ぼしている場合には、関節鏡下タナ切除術が検討されます。手術適応の判断は、症状と画像所見を踏まえて整形外科専門医が行います。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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