コラム

高齢者の膝が繰り返しずきずき痛む『偽痛風性関節炎』を痛風・変形性膝関節症と取り違えないために──ピロリン酸カルシウム結晶が招く関節内炎症と、幹細胞培養上清液の膝関節注射という選択肢を森脇医師が整理する2026.07.24

「膝がまた急に腫れて、ずきずき痛みが出た」「痛風と言われたが尿酸値は正常だった」──こうした症状で受診される高齢の方の中に、痛風でも変形性膝関節症でもない、ピロリン酸カルシウム結晶が関節内に沈着して急性炎症を起こす「偽痛風性関節炎」が隠れていることがあります。この病態は膝に最も多く、繰り返す発作と、発作の合間に残る慢性的な滑膜炎で日常生活を大きく損ないます。AVAN TOKYO 銀座では、急性期を過ぎた慢性期の膝に対して、関節内の炎症環境に働きかける保存的選択肢として幹細胞培養上清液の膝関節注射も検討しています。本稿では鑑別のポイントと、上清液という選択肢の適応と限界を森脇医師が整理します。

この記事の要点

・偽痛風性関節炎はピロリン酸カルシウム結晶が関節内に沈着して急性炎症を起こす結晶性関節炎で、尿酸結晶が原因の痛風とはメカニズムが根本的に異なる

・高齢者の急な膝の腫れと痛みでは、血清尿酸値が正常でも本疾患を疑う必要がある

・診断の柱は関節穿刺による偏光顕微鏡(弱陽性複屈折・菱形結晶)と、X線・エコーでの軟骨内石灰化(chondrocalcinosis)の確認

・急性発作中は消炎鎮痛薬・関節穿刺・ステロイド関節内注射で炎症を鎮めることが優先で、幹細胞培養上清液の膝関節注射は原則発作が落ち着いてから検討する

・発作の合間に残る慢性滑膜炎に対しては、関節内の炎症サイクルに働きかける保存的選択肢として上清液の膝関節注射が候補になり得る

偽痛風性関節炎とはどんな病気か

ピロリン酸カルシウム結晶が引き起こす関節内炎症

偽痛風性関節炎は、正式にはCPPD(calcium pyrophosphate dihydrate)結晶沈着症と呼ばれ、関節軟骨や半月板・滑膜にピロリン酸カルシウム結晶が沈着することで起こります。何らかのきっかけ(軽度の外傷、脱水、他疾患の急性増悪、手術侵襲など)で結晶が滑液中に遊離すると、白血球がこれを異物として貪食し、IL-1βをはじめとする炎症性サイトカインが一気に放出され、急性関節炎という形で表面化します。膝が最も多く、次いで手関節・肘・肩などにも起こります。

痛風・変形性膝関節症との違い

同じ結晶性関節炎でも、痛風は尿酸ナトリウム結晶が足の親指の付け根に発作を起こすことが典型で、若年〜中年男性に多いのに対し、CPPD結晶による本疾患は高齢者の膝関節に多く、女性にも普通に起こります。血清尿酸値は多くの場合正常です。また、変形性膝関節症は軟骨のすり減りと骨増殖を伴う慢性経過が主体ですが、CPPDでは「ある日突然」の膝の激しい腫脹・発赤・熱感を伴う発作を特徴とし、経過も治療戦略も大きく異なります。両者は併存もしやすく、変形性膝関節症で通院中の患者さんがある日急に膝を強く痛くしたとき、その裏に偽痛風性関節炎の発作が潜んでいることは珍しくありません。

pseudogout knee joint

診断と赤旗徴候の見分け方

関節液と画像所見から診る

確定診断の基本は関節穿刺による関節液検査です。偏光顕微鏡でピロリン酸カルシウム結晶(弱陽性複屈折、菱形)が検出されれば診断がつきます。X線では膝の半月板や関節軟骨に線状の石灰化(chondrocalcinosis)が写ることが特徴的で、エコーでも軟骨表面に高輝度エコー像を確認できます。これらの所見なしに「高齢者の急な膝痛だから痛風でしょう」と決めつけて治療を進めると、選ぶ薬剤や再発予防の方向性がずれてしまいます。

感染性関節炎という赤旗を必ず除外する

高齢者の膝が突然腫れ、発熱を伴う場合、化膿性関節炎(感染性関節炎)を必ず除外しなければなりません。関節液の白血球数・グラム染色・培養は必須です。感染が疑われる関節に幹細胞培養上清液を含む、あらゆる関節内注射を行うことは絶対に避けなければならない領域です。この線引きは診察と検査でしか判断できず、自己判断は禁物です。

偽痛風性関節炎に幹細胞培養上清液の膝関節注射という選択肢

急性発作中は原則行わない

急性発作では、関節内は結晶と炎症性サイトカインで激しく荒れており、NSAIDs・コルヒチン・関節穿刺による排液、必要に応じたステロイド関節内注射などで炎症を早く鎮めることが治療の柱です。この時期に幹細胞培養上清液の膝関節注射を追加しても、急性炎症をより速く鎮める根拠は乏しく、注射操作そのものが機械的刺激因子になる可能性もあります。当院では原則、急性期に上清液を膝関節へ投与することは行いません。

発作の合間・慢性滑膜炎に狙える範囲

一方で、この病態は一度発作が治まっても関節内には結晶が残り、慢性的な滑膜炎という「くすぶり」を残しやすいという特徴があります。この慢性期の関節内環境に対して、幹細胞培養上清液に含まれる抗炎症性サイトカインや成長因子が、滑膜の炎症サイクルを穏やかにする方向で働きかけると考えられています。ただし、これは結晶そのものを溶かす治療ではなく、変形性膝関節症の要素が併存すれば軟骨のすり減り自体は不可逆であり、効果には個人差と限界があります。

治療計画と併用療法の位置づけ

治療は、「急性期には炎症を鎮める」「発作の合間には引き金となる脱水や過度な負荷を避け、必要な症例では医師の判断でコルヒチン少量長期投与を検討する」「慢性滑膜炎に対して幹細胞培養上清液の膝関節注射など保存的アプローチを組み合わせる」という段階的な考え方が現実的です。膝を支える大腿四頭筋の筋力を保つ運動療法や、荷重を分散するインソール・杖などの装具療法も並行して進めます。関節疾患全般の情報については日本整形外科学会のサイトも参考になります。当院での治療の詳細は幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらをご覧ください。

よくある質問

Q. 偽痛風性関節炎の発作中に上清液の膝関節注射を受けても良いですか?

原則としてお勧めしません。急性期はまず消炎鎮痛薬や関節穿刺、必要に応じたステロイド関節内注射で炎症を鎮めることを優先します。発作が落ち着き、慢性的な滑膜炎の段階に入ってから幹細胞培養上清液の膝関節注射を検討することが現実的です。

Q. 尿酸値が正常なら痛風ではなくCPPDと考えて良いですか?

尿酸値が正常でも痛風発作は起こり得ますし、逆に高尿酸血症があってもCPPDは別に発症します。血液検査だけで両者を区別することはできず、関節液の偏光顕微鏡検査と画像所見(軟骨内石灰化)による確認が必要です。

Q. 上清液の膝関節注射で結晶は消えますか?

消えません。幹細胞培養上清液は関節内の炎症環境に働きかける治療であり、ピロリン酸カルシウム結晶そのものを溶かす作用は期待できません。目的は結晶除去ではなく、慢性的な炎症サイクルを穏やかにすることです。

Q. 変形性膝関節症とCPPDの両方があるときはどう治療しますか?

それぞれに打ち手が異なります。急に痛みが強くなったときはCPPD発作を疑って炎症を鎮め、落ち着いてから慢性的な変形性膝関節症・慢性滑膜炎に対する保存療法(運動療法・装具・幹細胞培養上清液の膝関節注射など)を組み立てるという二段構えが現実的です。

Q. 発作を繰り返さないためにできることは?

明確な予防法は限られますが、脱水を避ける、他疾患の急性増悪(感染症・手術・入院など)に備える、必要な症例では医師の判断でコルヒチン少量長期投与を検討する、といった対応が知られています。慢性滑膜炎そのもののコントロールも、発作間隔の維持に寄与し得ます。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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