コラム

幹細胞培養上清液の関節注射はどの関節痛に向くのか──変形性関節症・腱付着部炎・術後の炎症で分かれる適応の考え方を森脇医師が整理する2026.07.16

「膝や肩の痛みが長引き、ヒアルロン酸やステロイドだけでは物足りない」「手術は避けたいが、次にどんな選択肢があるのか」──そう考えて幹細胞培養上清液の関節注射を検討する方が増えています。しかしこの治療は万能ではなく、「向く関節痛」と「向かない関節痛」がはっきりと存在します。当院・AVAN TOKYO 銀座では、変形性関節症・腱付着部の障害・術後の炎症コントロールなど、痛みの成り立ちごとに適応を分けて考える姿勢を大切にしています。本記事では、監修医の森脇医師が「どのような関節痛にこの治療が向きやすいのか」を医学的観点から整理します。

この記事の要点

・関節注射は「炎症サイクルの抑制」と「修復環境の底上げ」の両面に働きかける治療で、痛みのメカニズムによって向き・不向きが分かれる

・変形性関節症の初期〜中期、腱付着部の慢性障害、術後に遷延する炎症は適応に近い場面が多い

・末期の関節破壊・活動性感染・神経由来の痛みには、幹細胞培養上清液単独では対応が難しい

・診断(問診・診察・画像評価)と組み合わせて初めてこの治療は関節痛で意味を持つ

・費用や回数だけで判断せず、経過観察と運動療法の併用を前提に選ぶ姿勢が重要

「関節注射」が向く痛みと向かない痛みが生じる理由

幹細胞培養上清液は、幹細胞が分泌するサイトカイン・成長因子・エクソソームなどを含み、炎症を抑制する方向と組織の修復環境を整える方向の両方に作用しうることが基礎研究レベルで報告されています。関節への注射と聞くと「痛みを取る」というイメージが先行しがちですが、実際に狙っているのは「関節内・関節周囲の炎症サイクル」と「損傷組織の修復環境」への介入です。TGF-β・IGF-1・FGFなど組織修復に関与するタンパク質、そしてエクソソームが運ぶmiRNAが、局所の細胞環境に働きかけると考えられています。

このため、痛みの原因が「炎症性の変化」や「修復の余地が残る組織損傷」であれば期待が持てますが、原因が「神経の絞扼」「関節構造の完全な破綻」「感染」であれば単独で効果を出しにくいのが実際です。「どこが・なぜ痛いのか」を明確にすることが、適応判断の出発点になります。

タイプ①:変形性関節症の慢性痛

膝・股関節・手指の変形性関節症は、幹細胞培養上清液による関節注射がもっとも検討されやすい領域です。軟骨のすり減りだけでなく、滑膜炎・関節液貯留・軟骨下骨のリモデリングなど、複数の炎症要素が絡み合って痛みを生みます。上清液が滑膜炎のサイクルを抑える方向に働くことで、痛みの軽減と機能改善につながる可能性が症例報告・観察研究レベルで示されています。

ただしKL分類グレードIV相当の末期関節破壊では、「軟骨が再生する」わけではありません。あくまで関節内の炎症環境を整え、日常生活の負担を軽くする補助的な位置づけと理解しておく必要があります。反応には個人差もあり、効果を保証できる治療ではないという前提を初診時に共有します。

タイプ②:腱付着部・靭帯損傷後の慢性痛

テニス肘・ゴルフ肘・アキレス腱症・足底腱膜炎・膝蓋腱障害など、腱の付着部(エンテシス)に生じる慢性痛も、関節周囲への注射という形で候補になる領域です。これらは「炎症(-itis)」というより「腱の変性(tendinosis)」と現在では理解されており、血流に乏しく治癒が遷延しやすい組織です。

上清液を含む注射は、局所の修復環境を整える保存的アプローチのひとつとして位置づけられます。ただし、安静・偏心性収縮を含む運動療法・活動量調整が土台であり、注射単独で完結する治療ではありません。

タイプ③:術後・スポーツ後に遷延する炎症

半月板部分切除後の膝、腱板修復術後の肩、足関節捻挫後などで炎症が長引く場面でも、上清液が検討されることがあります。組織はある程度治っているのに疼痛や機能低下が残るケースでは、局所の炎症環境が引き金となっていることが多いためです。リハビリと並行して「痛みを抑えつつ動かす」ための補助として組み込む使い方が実際的で、機能回復のスムーズさに貢献しうると考えられます。

「向かない」ケースも正直に整理する

一方で、慎重に判断すべき・非適応となるケースも明確にお伝えしておきます。

・活動性の感染・発熱を伴う関節炎(まず感染症治療が優先)

・末期の変形性関節症で構造破綻が高度な場合(人工関節置換術の適応検討が先)

・坐骨神経痛・脊柱管狭窄症など神経由来の下肢痛(神経ブロック等が先)

・骨・腫瘍性病変が原因の痛み(原疾患の精査が優先)

・コントロール不良の全身疾患・免疫抑制状態

関節疾患の情報については日本整形外科学会のガイドラインや解説も参照し、専門的な整形外科的評価とあわせて判断することが大切です。

効果判定と回数設計をどう考えるか

この治療は「1回で完結」ではなく、導入期に短い間隔で反応を見ながら維持期に間隔を空けていく二相設計が一般的です。効果判定は「痛み(VAS/NRSなどのスコア)」「可動域」「日常動作の質」を組み合わせて客観的に評価します。数か月経過しても変化が乏しい場合は、継続ではなく変更・中止・整形外科的再評価に切り替える判断を行います。

関節注射を受ける前に医師と確認したいこと

適応判断で失敗しないために、初診時に以下を一緒に確認することをお勧めします。

・X線・MRI・エコーなどの画像所見と診察所見の対応関係

・「どの動きで・いつ痛むか」から推定される責任組織

・過去のヒアルロン酸・ステロイド局所注射への反応

・運動療法・装具・生活動作の見直しが並行できるか

・効果判定のタイミングと、反応が乏しいときの次の一手

幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらのページでも、当院の考え方をまとめています。

regenerative joint injection knee shoulder pain

よくある質問

Q. 1回で効果は出ますか?

効果の出方には個人差が大きく、1回で軽減を実感する方もいれば、複数回・数か月かけて評価する方もいます。導入期と維持期に分けて回数・間隔を設計するのが実際的です。

Q. 変形性膝関節症の末期でも受けられますか?

関節破壊が高度な段階では期待できる範囲が限られ、人工関節置換術など整形外科的な選択肢の検討が優先されます。あくまで補助的な位置づけとご理解ください。

Q. 神経の痛み(坐骨神経痛など)にも効きますか?

神経由来の痛みには、この治療だけでは対処が難しく、まず原因となる病態の評価と、神経ブロックや保存療法の検討が優先されます。

Q. 運動やリハビリはどうすればよいですか?

「注射だけ」で完結する治療ではありません。運動療法・装具・生活動作の調整と並行することで、機能改善につながりやすくなります。

Q. 何回受ければよいですか?

症状・関節・重症度によって異なりますが、導入期に短い間隔で評価し、維持期に間隔を空けていく設計が一般的です。効果が乏しければ継続・変更・整形外科的再評価に切り替えます。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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