コラム

糖尿病がある人の膝・肩の関節注射は「受けられない治療」なのか──ステロイド注射で血糖が乱れる理由と、幹細胞培養上清液の関節注射という別の選択肢を森脇医師が整理する2026.07.18

「糖尿病があるので関節注射は難しいと言われた」「膝の痛みで整形外科を受診したが、ステロイド関節注射は血糖が上がるからと断られた」──外来でこうしたご相談を受けることは珍しくありません。糖尿病があると、関節注射という選択肢は本当に閉ざされてしまうのでしょうか。今回は関節注射と血糖・糖尿病の関係を整理し、そのなかで幹細胞培養上清液の関節注射がどのように位置づけられるのかを、AVAN TOKYO 銀座 森脇医師の視点でお話しします。

この記事の要点

・膝・肩・腰などの関節注射のうち、ステロイド関節注射は数日〜1週間程度、血糖値を上げやすく、糖尿病がある方には慎重な選択が必要になる

・ステロイドが血糖を上げるのは、肝臓での糖新生促進と末梢のインスリン抵抗性増強という薬理作用によるもので、局所注射でも全身に一定の影響が及ぶ

・幹細胞培養上清液の関節注射は、成長因子やサイトカインを介して炎症環境と組織修復に働きかけるアプローチで、ステロイドのような血糖上昇作用は理論上ほぼないと考えられる

・ただし糖尿病がある方の関節注射は、血糖コントロール状況・感染リスク・創傷治癒力の観点で、通常より慎重な管理が求められる

・治療前には HbA1c・空腹時血糖・合併症の有無を主治医と共有し、無理のない治療設計を組み立てることが重要である

糖尿病があるとき、関節注射で何が問題になるのか

膝・肩・腰の慢性的な関節痛に対して、整形外科ではまずステロイド関節注射やヒアルロン酸関節注射といった保存療法が候補になります。しかし糖尿病がある方の場合、このステロイド関節注射が思わぬ問題を引き起こすことがあります。

ステロイド関節注射と血糖の関係

ステロイドは強力な抗炎症作用を持つ一方で、肝臓での糖新生を促進し、末梢組織のインスリン感受性を低下させる作用があります。関節腔内に注射しても、その一部は全身循環に取り込まれ、注射当日から数日、場合によっては1週間程度、血糖値が普段より高めに推移することがあります。糖尿病のない方ではほとんど問題になりませんが、HbA1cが高めの方や、インスリン・SU薬で血糖コントロールを行っている方では、注射後の高血糖リスクとして無視できません。

感染リスクと創傷治癒

もう一つ関節注射で見落とせないのが、感染リスクと創傷治癒です。糖尿病があると好中球機能の低下や末梢循環障害から、通常より感染への抵抗力が下がることが知られています。関節穿刺自体は極めて安全な手技ですが、稀ながら関節内感染(化膿性関節炎)を起こすと重篤な事態を招くため、血糖コントロールが不良な状態では、どの薬剤を使うにせよ慎重にならざるを得ません。

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幹細胞培養上清液の関節注射は「血糖に優しい」選択肢になりうるのか

こうしたステロイドの血糖への影響を避けたい場面で、幹細胞培養上清液の関節注射という別の選択肢が視野に入ってきます。

作用機序がステロイドとまったく異なる

幹細胞培養上清液は、間葉系幹細胞を培養した際に細胞外へ分泌される成長因子(TGF-β、IGF-1、FGF、VEGF など)・サイトカイン・エクソソームなどを含む複合的な液体成分です。ステロイドのように糖新生を強く促す成分や、インスリン感受性を低下させる成分は含まれておらず、血糖値を直接動かす薬理作用は理論上ほぼないと考えられます。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもご覧ください。

それでも「無条件で安全」ではない理由

とはいえ、幹細胞培養上清液だから糖尿病があっても無条件に安全というわけではありません。関節穿刺という手技である以上、感染リスクはゼロにはできませんし、血糖コントロールが悪い状態では、注射部位の皮膚トラブル・遷延する腫脹・治癒遅延も起こり得ます。あくまで「血糖に対する薬理学的な直接影響が小さい」という点がステロイドとの決定的な違いであって、糖尿病そのものの管理はきちんと行った上で施術を検討する必要があります。関節疾患の情報については日本整形外科学会の資料も参考にしてください。

治療前に確認したい医学的チェックポイント

糖尿病がある方が関節注射を検討する際、まず整理しておきたいのが「血糖コントロールの現状」と「合併症の有無」です。

HbA1c と空腹時血糖の目安

明確な統一基準は存在しませんが、実臨床では HbA1c が 7.0%前後まで安定していれば、関節注射のリスクは比較的許容範囲と判断しやすくなります。8.0%を超える、あるいは血糖が乱高下しているコントロール不良の場合は、まず内科での血糖是正を優先し、その後に関節注射を検討する順序が望ましいと考えます。個人差が大きい領域ですので、必ず主治医と相談して判断することが大切です。

神経障害・血管障害の評価

特に足関節や足指への注射を検討する場合、末梢神経障害・末梢動脈疾患の有無は必ず確認しておきたいポイントです。しびれや冷感、足背動脈の触知不良などがあれば、皮膚の創傷治癒力が落ちている可能性があり、施術のタイミング・強度をより慎重に設計する必要があります。膝・肩など上肢や大関節でも、循環障害があれば注射後の腫脹・治癒に影響しうるため、事前評価は共通して重要です。

糖尿病と関節注射:「受けられない」で終わらせないために

糖尿病があるからといって、膝・肩・腰の関節痛に対する選択肢が完全に閉ざされるわけではありません。ステロイド関節注射が血糖への影響で難しい場合でも、幹細胞培養上清液の関節注射・ヒアルロン酸関節注射・運動療法・装具療法など、組み合わせられる保存療法は複数残されています。大切なのは、「なぜその関節注射を選ぶのか」を血糖・感染・治癒の三つの軸で説明できることです。主治医と再生医療を提供するクリニックが情報を共有し、無理のない治療設計を組み立てられれば、糖尿病を抱えながらでも関節痛と付き合っていく道は十分にあると考えています。関連するコラムはこちらのコラム一覧もあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. 糖尿病でも幹細胞培養上清液の関節注射は受けられますか?

血糖コントロールが極端に不良でなければ、多くの場合検討可能です。ただし HbA1c・空腹時血糖の把握と、内科主治医との情報共有が前提となります。合併症の有無や施術部位によって慎重度は変わりますので、必ず事前診察でご相談ください。

Q. ステロイド関節注射を受けた場合、血糖はどのくらい上がりますか?

個人差が大きい領域ですが、注射後2〜3日から1週間程度、普段より高めに推移することがあります。特にインスリン治療中の方は、事前に主治医と血糖モニタリング・投与量の調整を相談されることをおすすめします。

Q. 血糖コントロールが良ければ関節注射のリスクはゼロですか?

いいえ、感染・出血・アレルギーなど、関節注射に共通するリスクはゼロにはできません。ただし糖尿病特有の高血糖・感染・治癒遅延というリスクは、良好なコントロール下では大きく下げることができます。

Q. どの関節でも同じように考えて良いですか?

膝・肩・腰・足首・手指で解剖学的リスクや感染リスクの重みが変わります。特に足の関節では末梢神経障害・血管障害の評価がより重要となり、施術可否や強度の判断は関節ごとに個別化する必要があります。

Q. 主治医には何を伝えれば良いですか?

「どの関節に、どのような薬剤(ステロイドか幹細胞培養上清液か)を、どのくらいの頻度で注射する予定か」を具体的に伝えてください。可能であれば直近3か月の HbA1c・血糖値、内服・注射薬の情報を共有していただくと、より安全な治療設計につながります。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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