コラム

更年期以降に女性の膝痛が増える理由──エストロゲン低下と変形性膝関節症の関係、幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢を森脇医師が整理する2026.07.19

「50代に入ってから、それまでなかった膝の違和感や、階段の下りでの痛みを感じるようになった」——そう相談される女性は少なくありません。閉経に伴うエストロゲンの急激な低下が関節軟骨・滑膜・骨代謝に多面的な影響を及ぼし、変形性膝関節症の発症・進行リスクを高めることが知られています。本コラムでは、更年期以降に女性の膝痛が増える医学的背景と、保存療法の位置づけ、そして幹細胞培養上清液の関節注射がどのような選択肢となりうるかを、AVAN TOKYO 銀座 森脇医師の視点で誠実に整理します。効果には個人差があり、進行度によって適応は異なるため、まず正確な診断を得ることが第一歩です。

この記事の要点

・変形性膝関節症は閉経後の女性に急増する疾患で、エストロゲン低下が軟骨代謝・滑膜炎症・骨代謝を通じて発症リスクを押し上げる

・診断は問診・診察・単純X線立位撮影が基本で、必要に応じてMRIで軟部組織を評価する

・治療の土台は体重管理・運動療法・装具療法であり、これを飛ばしてはならない

・幹細胞培養上清液の関節注射は、炎症環境の是正と組織修復環境の整備を狙う保存的選択肢の一つで、軟骨をゼロから作り出す治療ではない

・末期の関節破壊では人工膝関節置換術のほうが現実的で確実な選択肢となる

更年期以降に膝痛が急増する医学的背景

40代後半から50代にかけて、女性の膝関節痛での受診が明らかに増えます。同世代の男性と比べ、女性は変形性膝関節症の有病率が約2倍高いという疫学データがあり、その背景には閉経期のエストロゲン急落が関与すると考えられています。

エストロゲンが関節組織に果たしていた保護的な役割

エストロゲンは生殖に関わるだけでなく、関節組織にも幅広く作用しています。軟骨細胞にはエストロゲン受容体が発現し、軟骨基質の合成維持や、IL-1β・TNF-αなど炎症性サイトカインの抑制に関与します。滑膜では炎症の暴走を抑える方向に働き、軟骨下骨では骨吸収を穏やかにする作用を持ちます。閉経によりエストロゲンが急速に失われると、これらの保護的な作用が一斉に弱まり、軟骨のすり減り・滑膜の慢性炎症・軟骨下骨のリモデリング異常が同時に進みやすい状態になります。

更年期以降の膝関節で現れる自覚症状

具体的には、朝の一歩目の膝のこわばり、階段の下りでのぐらつきと痛み、正座からの立ち上がりのつらさ、膝の内側の押した痛みなどが増えていきます。これらは初期〜中期の変形性膝関節症に典型的な症状で、放置すれば関節裂隙の狭小化や骨棘形成といったX線変化に進みます。加えて閉経後は筋量が減少しやすく、大腿四頭筋の萎縮が膝への衝撃吸収を弱め、痛みと機能低下の悪循環をつくります。

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診断と保存療法という揺るがない土台

「更年期だから仕方ない」と自己判断せず、まず整形外科で診断を受けることが重要です。関節疾患の情報については日本整形外科学会の情報も参考になります。

問診・診察・画像の役割

診断の基本は問診と身体所見で、痛みの部位(内側型が多い)、可動域、腫脹、関節液貯留の有無を確認します。単純X線立位撮影で関節裂隙の狭小化・骨棘・軟骨下骨硬化を評価し、KL分類でグレードを判定するのが標準的な流れです。MRIは半月板断裂や骨髄浮腫、鵞足炎など、他の疼痛源との鑑別が必要な場合に追加します。

運動療法・体重管理・装具という保存療法の柱

最初に取り組むべきは、体重管理と、大腿四頭筋を中心とした筋力トレーニング、可動域を保つストレッチです。体重が1kg減ると歩行時の膝負荷は3〜4kg分軽減されると報告されており、地道な減量が痛みに直結します。膝サポーター・足底板(インソール)・杖の使用は、関節への衝撃を和らげる有効な手段です。これらの保存療法の土台があってはじめて、注射治療や再生医療的なアプローチが意味を持ちます。

変形性膝関節症に対する幹細胞培養上清液の関節注射という選択肢

保存療法・薬物療法で痛みが十分にコントロールできない、あるいはヒアルロン酸注射で頭打ちを感じている中等度の変形性膝関節症の方に、幹細胞培養上清液の関節注射が保存的選択肢の一つとして検討されます。詳しくは幹細胞培養上清液の関節注射についてもご参照ください。

作用の考え方と期待できる範囲

幹細胞培養上清液には、TGF-β・IGF-1・FGF・VEGFなどの成長因子や、抗炎症サイトカイン、エクソソームが含まれます。関節腔内に投与することで、慢性化した滑膜炎症の是正と、軟骨・軟骨下骨・靭帯の修復環境を整える方向に働くと考えられています。ただし「軟骨をゼロから再生させる注射」ではなく、あくまで関節内の炎症・修復環境に働きかけて、痛みや機能の改善を目指すものです。効果には個人差があり、KL分類でグレードが進むほど期待値は下がります。末期の関節破壊が進んだ症例では、人工膝関節置換術のほうが現実的で確実な選択肢となります。

ヒアルロン酸・ステロイド注射との住み分け

ヒアルロン酸注射は関節液の潤滑と粘弾性を補う物理的アプローチ、ステロイド注射は強力な抗炎症作用で急性期の痛みを抑える薬理的アプローチです。幹細胞培養上清液の関節注射はこれらとは作用軸が異なり、炎症環境の是正と組織修復環境の整備という生物学的アプローチにあたります。3つを排他的に捉える必要はなく、病態と時期に応じて使い分ける・組み合わせるという発想が現実的です。

よくある質問

Q. 更年期の膝痛はホルモン補充療法(HRT)で予防できますか?

HRTが膝OAの進行を抑制しうるとの観察研究はありますが、予防目的での明確なエビデンスは確立していません。更年期症状の治療としてHRTが適応となる場合、副次的に膝への好影響が期待できる可能性はありますが、膝痛予防だけを目的にHRTを開始することは推奨されません。婦人科・整形外科と相談のうえ総合的にご判断ください。

Q. 幹細胞培養上清液の膝関節注射は何回受ければ良いですか?

一般的には導入期に2〜3週間隔で複数回投与し、その後は経過と症状に応じて維持期の間隔に切り替えるプロトコルが用いられます。回数・間隔は病態と反応性で個別に設計するものなので、担当医と相談のうえ決定してください。

Q. すでに人工関節手術を勧められています。上清液注射で回避できますか?

末期の関節破壊で日常生活に大きな支障をきたしている場合、人工膝関節置換術のほうが確実に生活の質を回復させる選択肢です。手術回避のみを目的として上清液注射を選ぶことは推奨できません。中等度以下の段階で、保存療法と組み合わせる選択肢としてご検討ください。

Q. 体重を落とせば注射は必要なくなりますか?

体重管理は最も強力な保存療法の一つですが、すでに軟骨・滑膜に変化が生じている場合、減量だけでは痛みが取り切れないことがあります。減量と運動療法を土台にしつつ、必要に応じて注射治療を組み合わせるのが現実的です。

Q. 関節内感染のリスクはありますか?

無菌操作を徹底しても、関節内感染はゼロリスクではありません。糖尿病のコントロール不良、活動性感染症、免疫抑制薬使用中などの背景がある場合は慎重な判断が必要です。ご不安な点は事前に必ずお伝えください。

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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)

日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員

米国医師免許資格(ECFMG certificate)

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