肩の奥がずきずきうずく『SLAP損傷(上方関節唇損傷)』を五十肩・腱板炎と取り違えないために──オーバーヘッド動作で悪化する肩関節内部痛と、幹細胞培養上清液の肩関節注射という選択肢を森脇医師が整理する2026.07.25
「肩を思い切り振り上げたときに奥の方でずきずきうずく」「腕を頭より上に上げるとカクッと引っかかる」「五十肩と言われて数か月治療しているのに一向によくならない」──こうした肩の奥にひそむ痛みは、肩関節の内側にある関節唇上部が損傷した上方関節唇損傷(SLAP損傷)によって起きているかもしれません。五十肩や腱板炎と誤って診断されたまま長く経過し、適切な治療にたどり着けない患者さんが少なくない疾患です。本稿では、この病態と他の肩疾患との鑑別、そして幹細胞培養上清液の肩関節注射という保存的選択肢について、AVAN TOKYO 銀座 再生医療の森脇医師の視点で整理します。
この記事の要点
・上方関節唇損傷(SLAP損傷)は、肩関節唇の上部が上腕二頭筋長頭腱付着部を含めて損傷する病態で、投球やベンチプレスなどオーバーヘッド動作の反復で起こりやすい
・「肩の奥のずきずきする深い痛み」「動作中のクリック音」「腕の力が抜ける感覚」が典型で、五十肩や腱板炎とは症状の出方が異なる
・関節唇そのものは血流に乏しく自然治癒しにくいが、痛みの多くは周囲の滑膜炎・関節内炎症から生じるため、幹細胞培養上清液の肩関節注射で炎症環境を整える選択肢がある
・タイプII〜IVで若年アスリートの場合は関節鏡下修復術が第一選択で、SLAP損傷の全例に注射が有効というわけではない
・肩関節注射は「疼痛と炎症を抑える」役割で、動きを取り戻すには運動療法との併用が前提となる
上方関節唇損傷とは何か──肩関節の内側で起きている損傷
関節唇と上腕二頭筋長頭腱の解剖学的関係
肩関節は、上腕骨の丸い骨頭が肩甲骨の浅い受け皿である関節窩に乗る構造をしています。この受け皿の縁を取り囲むリング状の線維軟骨組織が「関節唇」で、関節の安定性を担っています。関節唇の上部(12時方向)には上腕二頭筋長頭腱、つまり上腕の前面にある筋肉の腱が付着しており、この長頭腱付着部を含めた関節唇上部の損傷を、前後方向への広がりを含めて英語ではSuperior Labrum Anterior-Posterior lesionと呼びます。頭文字を取ってSLAP損傷、日本語では上方関節唇損傷というのが一般的な呼び方です。
典型的な受傷機序
損傷は、(1)投球動作を繰り返す野球選手、(2)ラケット競技のオーバーヘッドサーブ、(3)ベンチプレスなど重量物を頭上に持ち上げる動作、(4)転倒時に伸ばした手をついた際の衝撃、といった外力で起こります。若年層では反復性外力による疲労性の損傷が中心で、40代以降になると加齢変性を背景にした軽微な外傷で発症することも珍しくありません。

五十肩・腱板炎との鑑別が難しい理由
症状の出方の違いを見分ける
五十肩(肩関節周囲炎)は、関節包全体の炎症と拘縮によって「あらゆる方向に動かない・夜間にうずく」のが特徴です。腱板炎や腱板断裂は「腕を横から上に上げる途中の60〜120度で痛みが増す(ペインフルアーク)」が典型です。一方、SLAP損傷の場合は、(1)肩関節の奥の深いところがずきずきする、(2)オーバーヘッド動作でカクッというクリック感がある、(3)腕の力が急に抜ける感覚(dead arm sign)、といった訴えが目立ちます。日常生活の動きは意外とできるのに、投球やスマッシュのように腕を勢いよく振る動作でだけ痛みが出るのが特徴的なパターンです。
誘発テストと画像診断
診察ではO’Brienテスト(アクティブ圧迫テスト)やSpeedテストなどの誘発検査が使われますが、これらの感度・特異度は完璧ではありません。確定診断には造影剤を関節内に注入したMRI(MRアルスログラフィー)が最も精度が高いとされ、関節鏡による直接観察が最終的な確認手段となります。肩関節疾患の鑑別や治療の考え方については日本整形外科学会の患者向け情報も参考になります。
上方関節唇損傷に対する肩関節注射で狙える範囲
関節内の炎症サイクルへの働きかけ
関節唇そのものは血流に乏しく、いったん損傷すると自己修復力に頼るのが難しい組織です。ただし、患者さんが実際に感じている痛みの多くは、関節唇の断裂そのものよりも、それに伴って肩関節内で起きている滑膜炎・上腕二頭筋長頭腱付着部の炎症・関節液の性状変化から生じています。幹細胞培養上清液の肩関節注射は、関節腔内にTGF-β・IGF-1・HGFといった成長因子と抗炎症サイトカインを含む培養上清液を届けることで、関節内の炎症環境を整えることを狙います。裂けた関節唇を接着し直す注射ではなく、炎症の連鎖を鎮めて痛みと動きの改善を後押しするというのが位置づけです。
手術適応との境界を正直に
Snyder分類でタイプII(長頭腱付着部の完全剥離)以上、若年アスリートで競技復帰を目指す場合、明らかな関節不安定性を伴う場合には、関節鏡下のSLAP修復術や腱固定術が第一選択となります。一方、(1)画像上手術適応が明確でない、(2)中高年で腱板の変性を伴う、(3)手術は望まず保存療法で日常動作の改善を目指したい、といったケースでは、幹細胞培養上清液の肩関節注射を組み込む価値があります。全例に有効というわけではなく、適応の判断には整形外科的診察と画像評価が前提となります。幹細胞培養上清液の関節注射について詳しくはこちらもご参照ください。
治療設計と注射後のアフターケア
肩関節注射は「一度打てば終わり」ではなく、初期には数週間の間隔で2〜3回、その後は反応を見て3〜6か月ごとの維持間隔で経過を見るのが一般的です。効果判定は「痛みのスコア(VAS)・可動域(前方挙上、外旋、結帯位)・日常動作の困難感」を軸に、4〜8週の経過で行います。注射当日は入浴は短時間のシャワーにとどめ、飲酒や激しい上肢の運動は避けます。翌日以降は日常生活を通常通り行い、痛みが落ち着いてきた段階でインナーマッスル(回旋筋腱板)や肩甲骨周囲筋の運動療法を並行することで、SLAP損傷に伴う機能低下を改善しやすくなります。
よくある質問
Q. 上方関節唇損傷はレントゲンでわかりますか?
レントゲン(X線)では骨の変化は写りますが、関節唇そのものは軟部組織のため描出されません。診断にはMRI、特に造影MR arthrographyが最も精度が高く、確定診断が必要な場合は関節鏡での直接観察が行われます。
Q. 幹細胞培養上清液の肩関節注射で関節唇の断裂そのものは治りますか?
裂けた関節唇の組織を接着し直す作用は期待できません。この注射は関節内の炎症環境に働きかけて疼痛や機能の改善を狙う治療で、器質的な断裂修復とは別物です。修復が必要な明らかな断裂には関節鏡下手術が選択肢となります。
Q. 手術を勧められていますが、注射で粘れますか?
若年でスポーツ復帰を目指すタイプII〜IVの病変では手術が第一選択となる場合が多いです。ただし、日常生活の改善が目的で明らかな不安定性がない例、手術リスクを避けたい中高年の例では、幹細胞培養上清液の関節注射を含む保存療法を試みる価値があります。担当医と個別にご相談ください。
Q. 注射は痛いですか、副作用はありますか?
肩関節腔への穿刺は局所麻酔を併用し、可能な限りエコーガイド下で正確に行います。注射後24〜72時間の間、注射部位の張り感や軽い痛みが出ることがあります(ポストインジェクションフレア)。まれに感染や出血のリスクがあり、発熱を伴う強い痛みが出た場合は速やかにご相談ください。
Q. 何回くらい受ければよいですか?
一般的には導入期に2〜3回、その後は反応を見ながら3〜6か月ごとの維持間隔で経過を見ます。効果には個人差があり、3か月経過しても改善が乏しい場合は治療方針を見直す判断が必要です。
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【監修】森脇 進 / Shin Moriwaki(監修医師)
日本美容外科学会(JSAS)会員 / American Academy of Aesthetic Medicine 会員
米国医師免許資格(ECFMG certificate)
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